海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

妊娠・出産について

 

妊娠前に考えるべきこと



マルファン症候群の女性にとっての妊娠は、心臓や血管への負荷が増加することから、リスクが高まります。妊娠に耐えられる女性、耐えられない女性についての明確な基準はありませんが、定着していると思われる指針がいくつかあります。

 

  • 心臓弁や大動脈に重い疾患を抱えている女性は、妊娠を検討する前に妊娠リスクについて主治医と相談すべきです。大動脈径が 4cm に達すると裂傷や破裂など、重大な大動脈の合併症のリスクが顕著になります。妊娠時点で大動脈径が 4cm 未満のマルファン症候群女性にもリスクは残存しています。

  • 大動脈基部に対する composite graft 術(人工弁を用いた大動脈弁置換術を含む)を受けた女性は、ワーファリンが胎児に悪影響を及ぼす恐れがあることから、特別な指導を受ける必要があります。以前に大動脈基部の手術を受けていれば、妊娠リスクは軽減されると考えられますが、大動脈の他の部位が拡張し裂けることがあるため、手術をしたからといって、リスクを完全に排除できるわけではありません。

  • マルファン症候群女性の妊娠は「ハイリスク」(産科医用語)であり、少なくとも 3 ヶ月に一度、心エコーによる大動脈の検査を受ける必要があります。

  • 出産は最も負荷のかからない方法によるべきです。安全に配慮した普通分娩と帝王切開とで、大部分の女性マルファン症候群患者に負荷がかからないのはどちらかということに関しては現在結論が出ていません。最善の分娩法については、周辺の問題に精通した産科医と慎重に話し合った上で決定されるべきです。マルファン症候群だからといって、必ず帝王切開を選択しなければならないというわけではなく、どの妊娠についても当てはまる一般的な理由で必要となる場合もあります。

  • 多くの場合、出産は人生の早い時期に終えることが推奨されます。

  • マルファン症候群の治療に用いられる薬の中には、先天異常や流産のリスクが生じるため、妊娠中は服用できないものがあります。例えば、ACE 阻害薬(例:エナラプリル、カプトプリル)や ARB(例:ロサルタン)などです。

 

注意:

ロイス・ディーツ症候群や血管型エーラス・ダンロス症候群の診断を受けた女性は、妊娠に関してはさらにリスクが高まります。ロイス・ディーツ症候群の女性は、妊娠中あるいは出産直後に大動脈解離や子宮破裂のリスクがあります。血管型エーラス・ダンロス症候群の女性の妊娠についても非常に危険である場合があります。産科合併症としては、出産中の子宮破裂、膣や会陰の損傷、血管や結腸の出血および破裂のリスクがあります。ロイス・ディーツ症候群や血管型エーラス・ダンロス症候群の診断を受けている方や、いずれかが疑われる方は、妊娠を検討する前に遺伝カウンセラーや専門知識を持つ医師にご相談ください。

 

妊娠前にすべきこと

 

  • かかりつけ医や内科医による全身の健康診断を受けましょう。

  • 循環器内科で心エコー検査を受け、大動脈が妊娠に支障のない大きさであることを確認しましょう。

  • 妊娠やマルファン症候群に関する具体的な問題について、周産期医(母体胎児医学の専門家あるいはハイリスク出産を扱う産科医)と相談しましょう。

  • 臨床遺伝学の専門家や遺伝カウンセラーに相談し、パートナーと共にマルファン症候群の遺伝プロセスを理解するとともに、利用できる選択肢についての知識を身につけましょう。

 

子供に遺伝する確率

 

親の一方がマルファン症候群である場合、その親や子供の性別とは無関係に、遺伝する確率は 50% です。両親共にマルファン症候群である場合には 75% となります。マルファン症候群の両親からマルファン遺伝子を受け継いだ子供は重篤な症状が現れることがあり、出生後まもなく亡くなったり、深刻な合併症を抱えたりするケースもしばしばみられます。

 

覚えておくべきなのは、親のマルファン症候群の重症度は、子供に遺伝した場合の重症度を判断するための絶対的な目安とはならないということです。一般的に、同一家族内(同一変異型)におけるマルファン症候群の重症度は似たものとなりますが、個人差がみられます。

 

妊娠中に病気にかかるリスク

 

妊娠中は、全てのマルファン症候群女性において、合併症リスクが増加します。そのため、命に関わる恐れのある心疾患に対応できる経験と専門知識を持つ産科医に診てもらうことが重要になります。妊娠期間中は、少なくとも 3 ヶ月に一度は心エコー検査を受け、循環器専門医の指示に忠実に従うことも必要です。この分野に関する研究はそれほど多くありませんが、以下のような研究結果があります。

 

  • 大動脈径が 4.0cm 未満の女性は、妊娠中あるいは妊娠直後、大動脈の大きさが急激に変化したり、大動脈が裂けたりするリスクは非常に低い。

  • 大動脈径が 4.0cm を超える女性は、大きなリスクがあり、そのリスクは大動脈径に比例して増加する。

  • 大動脈径が 5.0cm を超えるマルファン症候群女性は妊娠中、極めて大きなリスクがあり、妊娠は推奨されない。

 

流産の可能性

 

マルファン症候群女性の流産率は一般集団と変わりません。

 

妊娠中にすべきこと

 

マルファン症候群の女性は、妊娠前に心エコー検査を受ける必要があります。妊娠中は少なくとも 3 ヶ月に一度、心エコー検査を受けてください。大動脈径が 4.0cm に近い場合には、心エコー検査を受ける回数を増やし、大動脈の急激な拡大がないかをチェックします。妊娠期間中、大動脈基部が著しく拡大した女性も、より頻回心エコー検査を受ける必要があります。

 

妊娠中のワーファリン服用について

 

妊娠 7~11 週にワーファリンを服用した場合、先天異常との関連があります。このため、妊娠中に抗凝固療法を必要とするマルファン症候群の女性は、ヘパリンという別の薬に切り替えるのが一般的です。ヘパリンは胎盤を経由しないため、先天異常との関連はありません。血液がサラサラで血栓が形成されないことを確認するため、血液が凝固するまでの時間(プロトロンビン時間、PTT)を頻回検査することが必要になります。ヘパリンは出産前後 24~48 時間、一時的に中止します。

 

母乳に含まれるワーファリンの濃度は非常に低く、胎児に対する抗凝固作用は全くないため、授乳中にワーファリンを服用しても安全性に問題はありません。そのため、出産後はヘパリン、ワーファリンともに服用を再開し、ワーファリンが所定の効果を得られた時点でヘパリンは中止できます。妊娠中あるいは出産後は、血栓のできるリスクが著しく上昇しますので、抗凝固療法を必要とする女性は、この期間中、確実に対策することが必要です。

 

妊娠中の β ブロッカー服用について

 

マルファン症候群の多くの女性、特に中度から重度の大動脈拡張が見られる方は、大動脈の拡張や大動脈解離のリスクを下げるため、 β ブロッカーによる治療を受けています。 β ブロッカーは、妊娠第 1 期を含め、妊娠期間中の使用が可能です。

 

妊娠中に β ブロッカーを服用した場合、低体重児が生まれるとの研究結果もあります。マルファン症候群患者に一般的に使用される β ブロッカーであるアテノロール(テノーミン)を使用した場合に、このような症例が最も多く見られます。また、アテノロールとプロプラノロールという 2 種類の β ブロッカーは、出産直後の軽度の心疾患との関連がありますが、出産後 2 日以内に自然治癒しているようです。

 

β ブロッカー服用中に生まれた新生児は、出生後に注意深く見守る必要があります。一般的な保育環境で構いませんが、小児科医には妊娠中に β ブロッカーを服用していたことを確実に伝えるようにしてください。

 

ARB (例:ロサルタン)や ACE 阻害薬(例:エナラプリル)など、一部の高血圧治療薬は、先天異常や流産のリスクがあるため、妊娠中は使用すべきではありません。

 

妊娠中の骨・関節の問題

 

妊娠により、しばしば関節痛や骨の痛みが増すことがあります。特に腰部や骨盤、脚部で顕著です。通常、歩くことで痛みが強くなります。座ったり、寄りかかったりすることで痛みは軽減されますが、それでも効果がない場合には、ベッドで横になって休むことも必要です。

 

普通分娩と帝王切開のどちらが安全か

 

研究によると、大動脈径が 4cm 未満の女性に関しては、どちらの方法でも同じような結果が得られています。リスクを軽減する方法としては、以下があります。

 

  • 血圧を安定させるため、硬膜外麻酔を使用する。

  • 「いきみ」を避け、子宮頸部の拡大後、補助的に鉗子を用いる。

 

大動脈径が大きな女性の場合、普通分娩と帝王切開でどちらがより安全かについては結論が出ていません。そのような妊婦に対しては、陣痛が始まる前に帝王切開により胎児を取り出す方がリスクが低くなる可能性があります。ですが、これについてはさらに研究を進める必要があります。

 

硬膜外麻酔について

 

硬膜外麻酔は、大多数のマルファン症候群女性にとって安全です。しかし、硬膜拡張が中等度の女性には推奨されません。硬膜拡張は、脊髄を取り囲む嚢(硬膜)が拡張し、硬膜上腔がほぼ残されていない状態で、髄液が漏れ出る可能性が大きくなります。特に腰椎の硬膜拡張は、直立した状態でのMRI検査で最もよく発見されます。

 

乳児に特に気をつけること

 

新生児に対しては、小児科医が基本的な検査を行います。この検査はどの新生児に対しても行われるものです。

 

通常、マルファン症候群の新生児に緊急処置が必要となるのは、重篤な僧帽弁逆流(僧帽弁に欠陥があり、左心室から左心房へと血液が逆流する疾患。僧帽弁閉鎖不全症とも呼ばれる)が見られる場合です。幼児においては、重大な問題を引き起こす最も一般的な原因がこの僧帽弁逆流です。重篤な僧帽弁逆流は聴診で発見できます。幼児に見られる僧帽弁逆流はマルファン症候群患者では一般にみられますが、一般に、(両親には見られない)新たな遺伝子変異が原因で引き起こされる、最も深刻な病態のマルファン症候群の幼児で最も頻繁にみられます。

 

重要なことは、新たな遺伝子変異は非常に軽いものから極めて重篤なものまで、マルファン症候群のあらゆる症状を引き起こす可能性があるということです。新生児に新たな遺伝子変異があるからと言って、特に深刻な症状が現れるというわけではありません。

 

遺伝した場合であれ、家系で初めて発症した場合であれ、新生児には早期に眼の診断を受けさせ、視力の発達が正常であることを確認することが重要です。水晶体亜脱臼は出生時あるいは出生直後に起きる可能性があるため、眼底検査が推奨されます。一般的に、小児科医による全身検査が重要となりますが、遺伝子の専門家や循環器専門医、眼科医など、必要に応じてその他の専門家と連携した検査が行われるべきです。

 

出典:

https://marfan.org/wp-content/uploads/2021/04/Family_Planning__Pregnancy.pdf

 

The Marfan Foundation did not participate in the translation of these materials and does not in any way endorse them. If you are interested in this topic, please refer to our website, Marfan.org, for materials approved by our Professional Advisory Board.

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