海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

ロイス・ディーツ症候群について

はじめに

 

ロイス・ディーツ症候群は結合組織に関する遺伝性疾患です。結合組織は全身に存在することから、ロイス・ディーツ症候群の特徴は、心臓、血管、骨、関節、肌、内部臓器(腸、脾臓、子宮など)に現れます。目に付きやすい特徴もありますが、心臓や血管の疾患などを発見するには画像検査が必要となります。

 

ロイス・ディーツ症候群と共通の特徴が見られる疾患には、マルファン症候群や血管型エーラス・ダンロス症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群などがあります。ロイス・ディーツ症候群に関する症状は非常に多彩で、重篤な方もいれば、軽度の方もいます。早期の正確な診断および救命治療のためには、兆候を知っておくことが重要となります。

 

ロイス・ディーツ症候群の有病率

 

ロイス・ディーツ症候群の患者数はわかっていません。ロイス・ディーツ症候群であっても、他の結合組織疾患の診断が付いていることがあります。このことは、特にマルファン症候群や「非定型の」マルファン症候群と診断されている方に当てはまります。全人種で男女によらず発症します。

 

ロイス・ディーツ症候群の特徴

 

ロイス・ディーツ症候群には4つの主な特徴があります。

 

  • 動脈がねじれていたり、らせん状になっている(動脈蛇行)

  • 両眼の間隔が広い(両眼隔離症)

  • 口蓋垂(喉の後方に垂れ下がる組織:のどちんこ)が横に広い、あるいは2つに割れている、および/あるいは口蓋裂がみられる

  • 動脈が拡張している(動脈瘤と呼ばれ、画像撮影で確認できる)動脈瘤の好発部位は大動脈基部(心臓から出ている血管の根本)であるが、全身の他の動脈でも見られることがある

 

これらの特徴は全ての患者で認められるとは限らず、これらがあればロイス・ディーツ症候群の診断が確定するわけではないことに注意することが重要です。ロイス・ディーツ症候群の特徴の中には、マルファン症候群でも認められるものがあります。以下に示します。

 

  • 大動脈の拡張(大動脈拡張あるいは大動脈瘤

  • 大動脈壁の裂傷(大動脈解離)

  • 脆弱な僧帽弁(僧帽弁逸脱)

  • 胸部の落ち込みあるいは突出(漏斗胸あるいは鳩胸)

  • 背骨が左右一方に湾曲している、あるいは後方から前方に歪曲している(側弯症あるいは後弯症)

  • 柔軟な関節

  • 扁平足

  • 硬膜の膨張あるいは拡大(硬膜拡張)

  • 手足の指が長い

  • 近視

  • 網膜剥離

 

ロイス・ディーツ症候群の特徴の一部は、マルファン症候群の特徴とは異なっているため、正しい診断が重要となります。これらの異なる特徴を認める場合、医師はロイス・ディーツ症候群を疑うことが重要です。マルファン症候群や他の結合組織疾患では見られない、ロイス・ディーツ症候群の特徴は以下です。

 

  • 動脈がねじれていたり、らせん状になっている(動脈蛇行)

  • 大動脈以外の動脈での動脈瘤や解離

  • 両眼の間隔が広い(両眼隔離症)

  • 口蓋垂(喉の後方に垂れ下がる組織:のどちんこ)が横に広い、あるいは2つに割れている

  • 口蓋裂(出生時に口の中の天井部分が裂けている)

  • 内反尖足(出生時に足が内側に反り返っており、上方に向いている)

  • 白目が青色あるいは灰色

  • 頭蓋骨の早期癒合(頭蓋骨癒合症)

  • 出生時の心臓疾患(心房中隔欠損症、動脈管開存症、二尖大動脈弁)

  • 皮膚の特徴(アザができやすい、広範な瘢痕、皮膚が柔らかい、透過性の皮膚)

  • 消化管(胃、腸)の疾患(食物の吸収不良、慢性的な下痢、腹痛、消化管出血および消化管の炎症など)

  • 食物アレルギー、環境アレルギー

  • 脾臓あるいは腸の破裂

  • 妊娠中の子宮破裂

  • 不安定頚椎、頚椎奇形

  • 骨の石灰化不良(骨粗鬆症

  • 脳内の液体貯留(水頭症

  • 脳の一部(小脳)の奇形(キアリ1型奇形)

 

水晶体亜脱臼(眼のレンズが正常な位置からずれること)および長い四肢は、通常、ロイス・ディーツ症候群とは関連しないことに注意することも重要です。

 

ロイス・ディーツ症候群の原因

 

ロイス・ディーツ症候群(タイプ1~5)は、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-ß)経路における受容体などの分子をエンコードする5つの遺伝子のうちのいずれかに生じた遺伝子変異が原因となり引き起こされます。

 

原因となる遺伝子は以下です。

 

  • LDS-1:TGFßR1

  • LDS-2:TGFßR2

  • LDS-3:SMAD-3

  • LDS-4:TGFß2

  • LDS-5:TGFß3

 

これらの遺伝子のいずれかに変異があれば、全身の結合組織や体組織の成長および発達が阻害され、ロイス・ディーツ症候群の兆候および症状が現れます。マルファン症候群では全身の結合組織に含まれるタンパク質であるフィブリリン1をコードする遺伝子(FBN-1)の変異が原因となっている点でロイス・ディーツ症候群と異なりますが、この2つの疾患には共通する特徴も多く見られます。

 

遺伝について

 

ロイス・ディーツ症候群は遺伝する可能性があります。つまり、ロイス・ディーツ症候群の親から子へと受け継がれるということです。突然変異により発症し、家系で初めてのロイス・ディーツ症候群患者となることもあります。

 

ロイス・ディーツ症候群の診断

 

通常、ロイス・ディーツ症候群の鑑別や診断に最も詳しいのは遺伝医学の専門家です。診断にあたっては患者の家族歴を調べ、身体検査を行います。さらに以下のような特別な検査も行います。

 

  • 心エコー検査では、心臓や心臓弁、心臓に近い大動脈(心臓から血液を運ぶ動脈)を検査します。

  • 3次元再構成CTあるいは3次元再構成MRA(磁気共鳴血管画像診断法)では、頭のてっぺんから足の先までの画像を撮影します。この検査では血管の蛇行や動脈瘤を発見できます。

  • 遺伝子検査では、ロイス・ディーツ症候群の原因として知られる遺伝子の変化(変異)を見つけることができます。他の結合組織疾患では通常見られないロイス・ディーツ症候群の特徴を持つ方に最も役立ちます。医師は遺伝子検査を依頼する必要があります。ロイス・ディーツ症候群の遺伝子検査を行っている施設については、genetests.orgをご参照ください。

 

該当する遺伝子に変異が見つかった場合、ロイス・ディーツ症候群の可能性が最も高くなりますので、医学的治療やカウンセリングを受ける必要があります。家族の他の方もロイス・ディーツ症候群かどうかの検査を受ける必要があるかもしれません。

 

遺伝子検査で遺伝子変異が見つからない場合でも、ロイス・ディーツ症候群あるいは他の結合組織疾患の可能性は残されています。他の疾患であるかどうかを確認する検査や追加検査、治療を受けたほうがいいのかを医師に確認してみましょう。

 

ロイス・ディーツ症候群は子供が診断されるケースが最多ですが、大人が診断されるケースも多くなってきています。以下のいずれかに該当する場合には、ロイス・ディーツ症候群である可能性について医師に相談してください。

 

  • マルファン症候群あるいは「非定型」マルファン症候群と診断され、いずれかのロイス・ディーツ症候群特有の特徴がある。

  • マルファン症候群のいくつかの特徴はあるが、明確な診断は付いておらず、いずれかのロイス・ディーツ症候群の特徴がある。

  • マルファン症候群の特徴があり、家族内にロイス・ディーツ症候群の特徴をもつ者がいる。

  • ロイス・ディーツ症候群の診断に当てはまる特徴が複数ある。

 

正確な診断が重要である理由

 

ロイス・ディーツ症候群の特徴がみられる方は、ロイス・ディーツ症候群に詳しい医師を受診し、その疾患かどうか診断してもらう必要があります。症状の管理は可能ですが、できる限り早期に、正しい診断、適切な治療、カウンセリングを受ける必要があります。

 

最も重要なのは、ロイス・ディーツ症候群では、命に関わる動脈瘤がマルファン症候群や他の結合組織疾患の場合よりも、より小さなサイズで裂けたり、破裂する可能性が高いということです。さらに、ロイス・ディーツ症候群では、低年齢で動脈瘤が破れたり、身体の他の部分の動脈で動脈瘤が破裂する可能性があるなど、マルファン症候群とは異なる特徴があります。これらの理由からロイス・ディーツ症候群では、早期に動脈瘤の手術を行うことが多くあります。

 

ロイス・ディーツ症候群の管理方法

 

心臓・血管

 

大動脈および他の動脈の検査

 

  • 少なくとも年1回、心臓弁や心臓に近い部分の大動脈の検査を受けてください。

  • CTあるいはMRIによる血管造影(コントラスト法)にて、頭部、頸部、胸部、腹部(胃周辺)、骨盤(胃から足の付根まで)の検査を定期的に受けてください。検査により、これらの部位の動脈に生じた動脈瘤や解離を発見できます。検査頻度は初回検査や見つかった動脈瘤の大きさ、成長速度によって異なります。サイズが大きく、成長が早い動脈瘤ではより頻繁な検査が必要となります。

 

 

  • 心拍数を下げる薬や降圧剤により、血管の拡張や裂傷を防ぐことができる可能性があります。医師は多くの場合、ロイス・ディーツ症候群の方にβブロッカーを処方します。アンギオテンシン受容体阻害薬(ARB)と呼ばれる降圧剤もロイス・ディーツ症候群の治療に役立つことがあります。ARBがロイス・ディーツ症候群に有効であるかについては、その機序と合わせてさらに研究が必要です。ARBであるロサルタンをロイス・ディーツ症候群の治療に用いる医師もいます。ロサルタンはFDAアメリカ食品医薬品局)承認の降圧剤です。服用によるリスクは低く、有効性は高いと思われます。

 

定期的かつ軽めのエクササイズ

 

  • ロイス・ディーツ症候群の方の大部分は運動しても問題はなく、すべきですが、ヘトヘトになるまで続けるべきではありません。一般的なルールとして、ロイス・ディーツ症候群の方が運動する場合には、運動中に息継ぎを挟むことなく、他の人と楽しく短い会話ができることを目標とすべきでしょう。

  • ウォーキングや軽めのハイキング、サイクリング、水泳により、安全に体を活発な状態に保っておくことができます。

  • ウェイトリフティングや腕立て伏せ、懸垂、腹筋など、筋肉を使った運動はすべきではありません。

  • フットボールやバスケットボールなど、頭部や胸部に鋭い打撃をうけるような、接触を伴うスポーツは避けるべきです。

  • ロイス・ディーツ症候群の患者さんは、血管のサイズや頸部の安定度によっては、より慎重で軽めの運動をする必要があります。

 

大部分のロイス・ディーツ症候群の方は、予定に沿った心臓・血管の手術を行うことで命が救われる場合があります。つまり、動脈瘤が裂けたり、破裂する前に手術で切除するということですが、このことがロイス・ディーツ症候群では非常に重要です。

 

  • 医師は動脈瘤のサイズや成長速度、動脈瘤の場所、早期の大動脈解離あるいは破裂の家族歴などに基づいて手術時期を決定します。

  • 最も一般的に行われる心臓血管手術は、大動脈基部(心臓に最も近い部分の大動脈)の置換です。

  • ロイス・ディーツ症候群の方に対する心臓血管手術の成功率は、一般的に非常に高くなっています。

  • 大動脈基部の置換は、マルファン症候群など、他の結合組織疾患の患者さんに対しても行われます。しかし、マルファン症候群のガイドラインを用いて、ロイス・ディーツ症候群の患者さんの手術時期を決めることは危険な場合があります。なぜなら、ロイス・ディーツ症候群では、動脈瘤が小さかったり、患者さんが低年齢であっても、破裂の可能性があるためです。

 

骨・関節

 

ロイス・ディーツ症候群の方は、骨や関節に関して特別な注意を要します。首の問題に関しては、頚椎のレントゲン撮影を行います。頸部に関しては以下のような所見があります。

 

  • 頚椎異常

  • 頚椎亜脱臼(部分的脱臼)

  • 頚椎不安定症

 

頸部レントゲンにより上記の所見が認められた場合には、整形外科あるいは神経外科を受診し、治療について助言を受けてください。場合によっては頚椎固定手術(頚椎の骨同士を結合する手術)を勧められる場合もあります。

 

ロイス・ディーツ症候群の方が何らかの手術を受ける場合には、レントゲンにより頚椎が不安定でないことを確認してください。レントゲンが重要な理由は、頚椎が不安定な場合、挿管(手術中に呼吸できるように口から管を入れる処置)時に問題が生じることがあるためです。また、頚椎が不安定な方はカイロプラクターによる脊椎マニピュレーションは受けるべきではありません。

 

骨・関節の手術以外の治療法には以下があります。

 

  • 側弯症(背骨の湾曲)の検査および矯正手術の適応を判断するための頻回な湾曲度の検査

  • 側弯用のコルセット着用

  • ゆるい関節および足の奇形用の装具の装着

  • ゆるい関節および関節亜脱臼用の装具の装着

  • 骨の石灰化不良(骨粗鬆症)の検査

 

骨・関節の問題に適応となる手術は以下です。

 

  • 側湾症の手術。手術が必要となるのは、ロイス・ディーツ症候群の一部の方です。ロイス・ディーツ症候群とマルファン症候群とで同じガイドラインが適用されます。

  • 漏斗胸あるいは鳩胸の修復手術。患者さんが外見の正常化を希望する場合に実施されます。まれに、心臓あるいは肺の機能などを改善するために実施されることがあります。

 

アレルギー・消化器

 

ロイス・ディーツ症候群の方では、環境アレルギーや食物アレルギーが多くみられます。アレルギー専門医や胃腸科専門医の受診が必要となることもあります。アレルギー症状として、鼻炎、副鼻腔炎、湿疹、じんましんなどが現れることがあります。消化器の症状には、食べ物が喉に使える感じ、下痢、腹痛、体重が増えないなどがあります。食道や腸の重度の炎症により、投薬治療や栄養摂取のための栄養チューブの挿入といった重点的な治療が必要となることもあります。

 

ロイス・ディーツ症候群の寿命について

 

ロイス・ディーツ症候群の方の寿命を正確に予測するにはさらに年月が必要です。多くの方は高齢になってから初めてこの病気の診断を受けます。近年、ロイス・ディーツ症候群についての診断や医学的な管理方法、手術法などが進歩したことにより、生存期間およびQOLの改善がみられます。

 

出典:

https://marfan.org/wp-content/uploads/2021/01/Loey-Dietz_Syndrome.pdf

 

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