海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

マルファンは火星人じゃない!

 

本編

 

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作:エリアス・クラーク・ターナー

絵:アレクサンドラ・デュボー

 

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その日、マービン君が近所に引っ越してきた。

 

家族と一緒にシルバーカーで到着すると、ドアが翼みたいに空に向かって開いた。最初にマービン君のパパが降りてきて背伸びした。すぐに僕は「なんて背の高い人なんだろう」って思った。腕が普通の人より長くて、どうやって車の中に入っていたのか不思議だった。鉛筆みたいに細くて、大きくて黒いフレームのついた、ぶ厚いレンズのメガネをかけていた。真っすぐ立ってなかったから、クエスチョンマークみたいに見えた。

 

次にマービン君のママが出てきた。ごく普通だった。僕が知っているほとんどの大人達と同じくらいの身長だった。周りを見回してニコニコすると、僕に気づいて手を振ってくれた。

 

そしてマービン君が降りた。まず彼の胸に目がいった。シャツの真ん中あたりが変な風に突き出ている。ほんとに胸が飛び出てるんじゃないとしたら、何かとがったものをシャツの下に隠してるんだと思った。パパと同じくすごく細長い腕をしていた。でも、僕と同じくらいの年齢ということを除けば、パパとそっくりだった。

 

パパと並んで立っているマービン君を見て、家族はみんなこんな見た目なのかな?と思った。すると 2 人は新しい家が気に入ったみたいで、親指を立てて「OK」の合図をしていた。あんな親指を見たのは初めてだった。

 

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マービン君は家に入る前に周りを見回していた。でも僕に気づくと、ママとは違って手も振らずにそっぽを向いて足早で歩いて行ってしまった。シャイなだけだといいけど…。うーん、やっぱり何だかおかしいぞ。火星人ファミリーが通りの向かいに引っ越してきたんじゃないか?―僕は真面目にそう思った。

 

日曜日のことだった。

 

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新学年初日の月曜日―僕のママがトーマス・エジソン小学校まで車で送ってくれた。僕はバーバソル先生が担任の4年生のクラスに入ることになっていた。去年バーバソル先生が受け持ったクラスは本当に先生のことが大好きだったから、バーバソル先生が担任ってことで僕はワクワクしていた。

 

車のドアを閉めた時、昨日見たシルバーカーが駐車場に止まっているのに気が付いた。あの火星人の少年も僕と同じ学校らしい。

 

ママと一緒に教室まで行くと、教室の外でバーバソル先生が新しい生徒達にあいさつしながら、親達と話をしていた。新しく先生のクラスになった生徒の両親が先に列に並んでいて、先生とずっと話をしているらしい。僕は教室のドアのところで先生にあいさつをして、ママとハグして別れた。教室に入ると、全部の机に名札が貼ってあった。教室の中を歩き回って自分の席を見つけた。隣の席は「マービン」という生徒らしい。「マービン・ザ・マーシャン(火星人)」という漫画のキャラクターのことで僕の頭の中はいっぱいになった。その時突然、「マービン」が誰なのか分かった気がした。

 

僕とマービン君の机は教室の前の方にあって、ホワイトボードから数フィートだ。先生がしてることがいつも見えるから、僕は教室の前の席がお気に入りだった。始業のベルが鳴って、案の定、昨日見た少年が入ってきた。こっちに向かって歩いてくると僕の隣の席に座った。マービン君は机に覆いかぶさるように座っていた。でも胸の下らへんのシャツが飛び出しているのがはっきりと分かった。苦しそうな座り方だ―誰にも気づかれないようにこんな格好をしているのかもしれないけど、胸が普通じゃないことは誰にでも分かりそうだった。彼はメガネをかけていた。

 

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「ホワイトボードの近くじゃないと、頭が痛くなっちゃうんだ」ささやくようにマービン君は言った。

 

「ふーん」なんだか大変そうだ。

 

少し不安だったけど、僕は思い切って自己紹介することにした。

 

「僕はジョー・スミス。」

 

「僕はマービン・マクギリガン。家族と一緒に引っ越してきたばかりなんだ。」

 

「知ってる。昨日見てたからね。僕は通りの向かいの家に住んでるんだ。君のパパの車は超イケてるね。宇宙船みたいだけど、どんな車なの?」

 

マービン君は体を起こして少し背筋を伸ばした。「でしょ。僕もそう思う。デロリアンっていう名前なんだけど、ドアが翼みたいに開くところが僕のお気に入りさ。僕のパパは車メーカーの宣伝部にいるから、PR用に一台もらったんだ。」

 

「スゲー!」思わず声が出てしまった。「僕のパパは工事関係。キッチンとかトイレ専門だけどね。」なんだかおかしなことを言っちゃったみたいだ。マービン君は笑ってくれた。

 

ちょうどその時、2時限目のチャイムがやかましく鳴って、教室にバーバソル先生が入ってきた。ドアを閉めてみんなの前に立って自己紹介した。そして「教室をグルっと回ってお互いに自己紹介しましょう。その後皆さんに夏休みの思い出を発表してもらいます」と言った。

 

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友達のジミーは、YMCAの一日キャンプに行って泳ぎを習ったこと、ジニー・フォカッシオは、乗馬レッスンを受けて馬を一回ジャンプさせてみたことを発表した。カッコイイと思った。女子の何人かがうらやましがっているのが伝わってきた。

 

サムは家族でチリにスキーに行ったらしい。みんな「夏なのに?」って不思議そうな顔をしていた。でもチリは南半球にあるから、今は冬だ。別に不思議でもなかった。

 

僕はというと、夏休み中に友達にスケボーパークに連れて行ってもらって、「オーリー」という、スケボーと一緒にジャンプする技を教えてもらったことを話した。

  

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マービン君は悲しそうな顔でみんなの発表を聞いていた。自分の番になると、彼はコンピューターゲームのコースに参加したことを話した。僕はすごいと思ったけど、クラスの反応は、“ひんやりチリの家族スキー”ほどじゃなかった。―あの胸のせいで、どこにも行けなかったのかな、と僕は思った。

 

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エリックの次にスージーが発表して、2時限目が終わった。次は校庭で体育だ。「今日はドッジボールをしまーす」とバーバソル先生が元気よく言った。マービン君は不安げだ。どうやらドッジボールは彼のお気に入りではないらしい。みんなは立ち上がってイスを机の下に入れると、教室を出て行った。

 

僕が教室を出ようとした時、マービン君がバーバソル先生と教室の後ろでひそひそ話をしているのに気が付いた。先生は慰めるように彼の肩に手を置くと、誰にも聞こえないような声で「体育の時間は、図書館にいなさい」と言っていた。マービン君はホッとしたみたいだったけど、悲しそうに見えた。先生から許可証を受け取ると、マービン君はゆっくりと図書館の方に歩いて行った。―きっと慣れっこになっているんだろう。

 

校庭に出ると、保健室のアトキンス先生がバーバソル先生を待っていた。アトキンス先生は僕たちに、重ねてあるイスを持ってきて、先生の方に体を向けて静かに座るように指示した。「みなさん」先生は僕たちに語り始めた。「今年度、新しいお友達がクラスの仲間入りをしましたね。マービン君です。マービン君は今年、体育の授業には参加できません。けがをしやすい病気だからです。」

 

「マービン君はマルファン症候群という病気にかかっています。簡単に言うと、マービン君の体は、みなさんや私の体よりも丈夫にはできていません。マルファン症候群は結合組織の病気です。身体のいろいろな部分が離れないようにまとめてくれているのが、結合組織です。そして身体の成長具合も調節してくれています。結合組織は全身にありますので、様々な部分にマルファン症候群の特徴が現れます。例えば、心臓や血管、骨、関節、眼などです。肺や皮膚に特徴が出ることもあります。」

  

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「マルファン症候群の人は、運動をする時には特別なルールに従わなければなりません。また、バスケットボールやフットボールなどの激しいスポーツはしてはいけないことになっています。大動脈という心臓から血液を運ぶ太い血管に非常に大きな負担がかかってしまうからです。スポーツなどの運動をすることで、眼に問題が起きることもあるのです。」

 

「病気のことを除けば、マービン君はみなさんと同じです。見た目は私達と違うかもしれません。ですが、そこを乗り越えて、ありのままのマービン君を受け入れられるようになってください。」

 

「さあ、病気のことでマービン君をからかったり仲間はずれにしたりするお友だちはもういませんね。彼の病気は遺伝性です。マービン君のお父さんも同じ病気です。ですが、マービン君はそのような病気をもって生まれたかったわけではありません。みなさんと同じように接してほしいのです。ですから、自分さえよければいいという考えは捨ててください。そしてマービン君をクラスの仲間として温かく迎えてあげましょう。」

 

ジミーが手を挙げて質問した。「病院に行って、薬をもらえばいいんじゃないんですか?」「マルファン症候群は遺伝子の病気だから今のところ治療法はないの」バーバソル先生が答えた。

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「大動脈を守ってくれる薬や体が痛いときに飲む痛み止めの薬はあります。でも、マービン君の病気を取り去ってくれる薬はないのです。」

 

みんなシーンとなった。ジニー・フォカッシオは鼻をグズグズさせながら、「本当にかわいそう。馬にも乗れないのね」とナンシー・シューメーカーにささやいた。

 

「自転車もダメかも」ナンシーが付け加えた。

 

「マービン君ができることは何ですか?」僕は大きな声で質問した。

 

「マービン君はレゴを組み立てたり、コンピューターゲームをしたり、本を読むことが好きです。そういえば、珍しいペットを飼っているそうですよ」バーバソル先生が説明した。

 

サムが言った。「マービン君の家で遊ぶのって楽しそう。僕のレゴは一種類だけだけど、マービン君はきっとたくさん持ってると思う。それに僕のママは全然ペットを飼わせてくれないんだ。」

 

「サム君、いつかマービン君をお家にご招待して、一緒に遊んでみたらどうかしら?そうすれば、マービン君のお家で遊んだ時の楽しさが分かると思いますよ」とバーバソル先生がアドバイスをした。

 

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説明が終わるとアトキンス先生は、僕たちがきちんと話を聞いて質問したことをほめてくれた。そしてイスを回収した。そのあとバーバソル先生が、「短い時間ですが、まだドッジボールをする時間があります」と言ったので、僕たちはチームに分かれてアスファルトの上に移動した。すごく楽しかったけど、マービン君のことで頭がいっぱいで、かわいそうな気持ちになった。―マービン君も一緒にできればいいのに。僕は放課後、マービン君を自分の家に誘うことにした。

 

体育の次の時間は数学で、数学の次は図書館学だった。そのあとはランチの時間だ。その日の僕のメニューは、「ハムとチーズのサブマリンサンドイッチ」と「フレッシュプレッツェル」―ママのスペシャルランチだ。ジュースも2パック入っていた。席はマービン君の近くにした。放課後、家に誘うためだ。学校のランチを買っている生徒もいたけど、超まずそうだった。

 

マービン君と僕のランチは手作りだ。マービン君は、全粒粉パンにピーナッツバターとジャムを付けてをゆっくり食べていた。家の誰かが健康オタクなのか、ニンジンスティックをかじっている。―かわいそうに。ニンジンスティックなんて。本当に気の毒になって、プレッツェルとジュース1パックを分けてあげた。すると彼の目がパッと明るくなって、うれしそうに受け取っくれた。

 

「マービン君、うちの裏庭に新しいトランポリンがあるんだ。そんなに大きくはないけど、すごく楽しいと思うんだ。放課後うちに来てやってみない?」

 

「うーん、やってみたいんだけど、トランポリンで遊んじゃダメって言われてるんだ。捻挫するかもしれないからって。他に一緒にできることってある?」

 

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「もちろんさ」とは言ったものの、僕は思考停止してしまった。僕の家でマービン君ができることってなんだろう?「こんなに大きいブリキ缶に入ったリンカーンログがあるんだけど、それで一緒に何か作ろうよ。」

 

「楽しそうだね。僕はモノを作るのが大好きなんだ。でも、ママに確認しなきゃ。」

 

放課後、迎えを待っていると、マービン君の家のシルバーカーが停まってるのが見えた。マービン君は車に向かって歩いて行った。そして上半身だけ車の中に入れると、今日僕の家に遊びに行ってもいいか、ママに確認していた。戻ってきたマービン君はガッカリしていた。「ダメだって。今日はエコー検査があるんだ。明日でもいい?」

「いいよ。でもエコー検査って何?」

マービン君は深く息を吸ってから説明してくれた。エコー検査っていうのは、心臓の写真を撮って、心臓に出入りする血管の大きさが正常かどうかをチェックする検査らしい。僕は訳が分からなくなってきた。

 

「胸を切らずにそんなことが出来るの?胸が飛び出てているのはそのせいなの?」僕はうっかり口を滑らせてしまった。

 

「そうじゃないよ。僕の場合は胸の骨がこんな風に成長してきたってことさ。エコー検査では、超音波装置っていう特別な機械を使って写真を撮るんだ。全然カメラには見えないけどね。」マービン君は笑いながら答えてくれた。

 

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そのとき突然、ママが弟が生まれる前にエコー検査をしていたのを思い出した。僕も見ていたんだっけ。わかったぞ。「スライムみたいなドロドロしたやつを塗って、体にワイヤーをくっつけるんだよね。」

 

「そのとおりさ。それからマイクみたいなのをドロドロの中で動かして、コンピュータの画面に写った写真を取るんだ。検査中はその画面を見ていてもいいし、映画を見ていたっていいんだ。」

 

「くすぐったそうだね。」

 

「ピンポン。」

 

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「マービン、何してるの?遅れるわよ。」マービン君のママだ。

 

「もう行かなきゃ。じゃあね、ジョー、また明日。」

 

「うん、またね。検査楽しんできてね。」

 

火曜日、マービン君は口笛を吹きながら教室に入ってきた。僕の隣の席に座ると「ママが君の家で遊んでもいいって。君のママは大丈夫?」

 

「もちろんさ。」「学校が終わったら迎えにきてくれるんだ。途中で寄り道してフローズンヨーグルトを食べよう。」

 

「おいしそう。トッピングは3種類かけたいな。僕のママはグラノーラしか食べさせてくれないんだ。」

 

「いいね。砂糖もドッサリかけよう。そういえば、エコー検査はどうだったの?」

 

「問題なし。でも新しい薬を出されたよ。毎日1錠飲むんだ。強い体になるかもしれないんだって。そしたらもっと運動できるかもしれない。でも試験段階なんだ。僕はサイエンスプロジェクトの実験台さ。」

 

「そしたら、今年のスクール・サイエンス・フェアに参加させてあげるよ」僕はジョークを言った。

 

「ホント?ジョンズ・ホプキンス大学で診てもらってるから、同じようなものだね。」

 

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「すごいなぁ!でもマルファンっていう名前はどこから来たの?」

 

「1896年にフランスのお医者さんが見つけたんだ。そのお医者さんの名前が、アントワーヌ・マルファンさ。マルファン先生の患者さんの中に5歳の女の子がいてね、腕とか手とか足の指がすごく長くて、脚は細かったんだ。こういう特徴には原因があることがわかったんだけど、ちゃんと説明できるようになったのは1991年だよ。その後で長い手足以外にも特徴があるってわかったんだ。例えば、背骨が曲がっていたり、眼の中にある水晶体が外れちゃったり、心臓の弁から血液が漏れやすかったり、関節が弱くて、すぐに捻挫しちゃったりね。でも一番危険なのは、大動脈が大きくなりすぎて、破裂しちゃうってことなんだ。」

 

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「うわぁ、怖いね。じゃあ、君は歩く爆弾ってことなの?」

 

「まさか!僕の大動脈はそんなに危険じゃないんだ。新しい薬もあるし、お医者さん達がちゃんと診てくれてるしね。それに大動脈が破裂しないようにマルファンの人が受ける手術もあるんだ。僕のおばあちゃんがその手術を受けたんだけど、今はピンピンしてるよ。同じマルファンの家族でも、特徴が出る場所が違うんだ。マルファンはみんなオンリーワンってことさ。パパの背骨は曲がってるけど、僕のは曲がってないしね。」

 

「へぇー」マービン君の大動脈には問題がないみたいだ。よかったー。「君のおばあちゃんもマルファンなんだよね。じゃあどうして君もマルファンになったの?」

 

「遺伝さ。僕の家系の遺伝子の中にマルファン症候群が入ってるんだ。最初はパパの家系から始まっててね、パパのおばあちゃんがマルファン第一号なんだけど、初めてマルファンになった人がどうしてそうなったかっていう理由は誰も分からないんだ。」

 

「マルファンが遺伝子の中にあるってどういうこと?」

 

「遺伝子は染色体の中にあるんだけど、その中にマルファンが入ってるってことだよ」マービン君は説明してくれてるけど、僕にはチンプンカンプンだ。「1991年にね、あるお医者さんがマルファンの原因は染色体にあるって突き止めたんだ。染色体ってわかる?」うーん。

 

「染色体はDNAが集まったものさ。僕らの細胞の中には染色体が46本あるんだ。

 

一本一本の染色体にはたくさんの遺伝子が入ってて、マルファンの場合は15番目の染色体にある遺伝子の一つが異常なんだ。僕のパパもそうなんだけど、ママは違うよ。だけど、パパだけが異常な遺伝子を持っていても、僕には50%の確率で遺伝しちゃうんだ。しょうがないことなんだよ。」

 

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「運が悪かったってことなんだね」僕は言った。「でもさ、見方を変えればX-MENみたいじゃない?これまで気が付かなかったすごいパワーが見つかるかもしれないじゃないか!」

 

「実はね、念力パワーでモノを動かそうとしてみたんだ。ダメだったけどね。だけど、僕は音楽に向いてると思う。耳で聞いただけでピアノの音がわかっちゃうんだ。僕のお医者さんが言ってたんだけど、ミュージシャンとか芸術家にマルファンの人が多いんだって。ブロードウェイで『Rent』っていうミュージカルを作ったジョナサン・ラーソンみたいなマルファンの有名人もいるんだ。」

 

「僕たちはまだまだこれからだもんね」 僕がそう言うと、マービン君は「君だって卒業する頃には、すごい才能に気が付いているかもしれないよ」と言った。

 

「そうだね。ピアノの練習をすればだけどね」そう言って僕は両手の手のひらを上に向けるポーズをとった。

 

「君の弟もマルファンなの?」僕は尋ねた。

 

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「違うよ。弟は運がいいヤツなんだ。病院に行かなくてもいいし、薬とかもいらないんだ。自転車にも乗れるようになってきてるし。。。ホント腹が立つ。まだ5歳なのに何でもしようとするんだ。サッカーとかね。僕にはできないのに。だってボールが頭にぶつかって、眼のレンズが外れちゃうかもしれないでしょ。ホント参っちゃうよ、結合組織っていうのは体のどこにでもあるんだから。でもね、パパが来年の夏にヨットとかゴルフとかを教えてくれるんだ。ヨットとかゴルフはマルファンでもできるんだ。」

 

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「いいなぁ。僕のパパはヨットなんでできないし、週末はいつもヘトヘトでスポーツなんかできないよ。平日は仕事で何か作ってて、毎日すごく早起きしなきゃいけないからね。僕にもヨット教えてもらえる?」

 

「パパに話して君を招待するよ。来年の夏にボートを買うからね。ところで今日の君のランチは何?僕のはレバーソーセージ、マヨネーズ付きだよ」そう言ってマービン君はニヤリとした。

 

 「心配ご無用さ。ママにフリートスを2袋ちょうだいって言ったら、珍しくOKしてくれたんだ。パパが朝食前に一階のトイレのレバーを直してくれたから、機嫌が良かったんだよ、きっと。」

 

「君のパパがトイレ専門っていうのはそういうこと?」一緒に笑った。何だか楽しい1年になりそうだ。
 

用語集

 

大動脈:心臓から身体の他の部分へと血液を運ぶ太い血管。

 

細胞:あらゆる生命体の基本的なサブユニット。独立した生命体として存在できる最も単純な単位。

 

染色体細胞核の中にあり、遺伝子を含む。染色体はDNAで構成されており、各細胞内に対となってみられる。対となった染色体の片方は一方の親から受け取るため、すべての子供は父親と母親から半分ずつ染色体を受け継ぐことになる。

 

結合組織:体内で接着剤あるいは足場としての役割を果たす。コラーゲンおよび弾性繊維から構成される細胞間物質(細胞外マトリクス)を含む。

 

DNA(デオキシリボ核酸:遺伝物質。すべての細胞活動に必要な遺伝情報(タンパク質の生成方法を含む)を伝える巨大分子。

 

エコー検査:超音波を用いて、心臓や心臓に近い血管の画像を撮影する無痛検査。

 

遺伝子:各細胞に含まれる微小な部分であり、親から子へと引き継がれ、成長や機能を身体に伝える。

 

遺伝性疾患:遺伝子の欠損や欠陥、染色体異常により引き起こされる病理学的疾患。遺伝病や遺伝性障害とも呼ばれる。

 

心臓弁:心拍と共に開閉する心臓の一部。心臓には4つの弁があり、心臓から全身へ血液を送るため、連携して動く。

 

遺伝性:遺伝子を通じて親から特徴を受け継ぐ性質をもつこと。特徴とは、外見のこともあれば、マルファン症候群のように遺伝性疾患のこともある。

 

関節:2つの骨が結合する部分であり、それらの骨に可動性を与える。例えば、肘、膝、足首、肩などは関節に当たる。

 

マルファン症候群:遺伝的疾患であり、心臓、血管、骨、関節など、複数の体組織を弱体化させる。寿命を最大化するには、早期診断と早期治療が必須となる。

 

偏頭痛:最も一般的なタイプの血管性頭痛。様々な刺激に対する脳内動脈の異常な過敏性が関係しており、けいれん(収縮)により動脈の太さに急激な変化が生じる。一方、脳内や頭皮にあるその他の動脈は広がる(拡張)ため、ズキズキとした頭痛を感じる。

 

変異:永続的なDNAの構造変化であり、病気の原因となりうる。

 

脊柱:背骨として知られる骨の柱。脊髄を取り囲み保護する。身体の高さに応じて、頚椎(頸部)、胸椎(胸部)、腰椎(腰部)に分類される。

 

超音波:高周波の音波。特殊な機器を使用することで、組織にぶつけて反射させることができる。反射した超音波はソノグラムとよばれる画像に変換される。超音波画像診断(超音波検査)により、身体を切開することなく柔らかな組織の内部や体腔を見ることが可能となる。超音波は妊娠中の胎児の検査に用いられることが多い。

 

マルファン症候群とは?

 

マルファン症候群は結合組織の疾患です。結合組織は全身の各部を一つにまとめ、身体の成長度合いを調整する手助けをします。結合組織は全身に存在するため、マルファン症候群の特徴は多くの異なる部位で見られます。特徴は、心臓や血管、骨や眼に症状が現れることがほとんどです。肺や皮膚に症状が出ることもあります。マルファン症候群は知能には影響しません。

 

マルファン症候群の原因は?

 

マルファン症候群はFBN1遺伝子の変化(変異)により発症します。FBN1遺伝子は結合組織の重要な一部であるフィブリリン-1と呼ばれるタンパク質の作り方を身体に伝えます。この変異がマルファン症候群の特徴を生み、症状が現れます。

 

マルファン症候群の特徴とは?

 

マルファン症候群の特徴は多様な部位に現れます。一人の患者にすべての特徴が現れることは稀です。特徴の中には目に付きやすいものがありますが、心臓の疾患などの発見には特別な検査が必要です。一般的な症状は以下です。

 

骨と関節

  • 異常に長い手足
  • 長身で痩せ型
  • 背骨の湾曲(側弯症あるいは後弯症)
  • 漏斗胸あるいは鳩胸
  • 長く細い指
  • 柔軟な関節
  • 扁平足
  • 高口蓋
  • 叢生歯


 

心臓および血管

  • 大動脈の拡張あるいは膨隆(大動脈拡張あるいは大動脈瘤
  • 大動脈内壁の亀裂による、血液の大動脈内膜間への流入(大動脈解離)
  • 「だらりとした」僧帽弁(僧帽弁逸脱)

 

その他

  • 妊娠や体重増減では説明できない、皮膚のストレッチマーク
  • 突然の肺虚脱(自然気胸
  • 脊髄を取り囲む硬膜嚢の拡張あるいは膨隆(硬膜拡張)

 

マルファン症候群は先天性の疾患ですが、若年期にはいずれの特徴にも気が付かないことがあります。マルファン症候群の特徴は年齢によらず、幼児、10代、高齢者などで発現し、歳を重ねる毎に悪化します。

 

マルファン症候群の診断方法は?

 

マルファン症候群の診断は、結合組織疾患の診療経験が豊富な医師が、全身の数か所を検査した後に行われることがほとんどです。以下のような検査があります。

 

  • 詳細な家族歴および病歴調査。家系にマルファン症候群の疑いのある人がいるか、若くして原因不明の心臓関連の病気で亡くなった人がいるか、など。

  • 全身の身体検査。

 

身体検査で発見できなかったマルファン症候群の特徴を同定するため、以下のような検査も受けてください。

 

  • 心エコー検査。心臓や弁、大動脈(心臓から全身へと血液を運ぶ血管)を調べる検査です。

  • 眼の検査。例えば、水晶体がずれていないかを診るための細隙灯による検査。瞳孔を完全に開いてから行うことが重要です。

 

遺伝子検査でも役立つ情報が得られる場合があります。

 

  • マルファン家系の方については、遺伝子検査が診断確定に役立つことがあります。
  • マルファン症候群の特徴の中には、マルファン関連疾患で見られる特徴もあるため、医師による検査で診断が確定しない場合には、遺伝子検査が役立つことがあります。

 

マルファン症候群の特徴が1つ以上当てはまることがありますが、それだけではマルファン症候群の確定診断には不十分です。追加検査や遺伝子検査を別途行うことで、マルファン関連疾患かどうかが判明します。

 

出典:
http://www.marfan.org/sites/default/files/resources/Marfan%20Does%20Not%20Mean%20Martian_0.pdf

 

The Marfan Foundation did not participate in the translation of these materials and does not in any way endorse them. If you are interested in this topic, please refer to our website, Marfan.org, for materials approved by our Professional Advisory Board.

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