海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

血管型エーラス・ダンロス症候群について

 

血管型エーラス・ダンロス症候群(vEDS)は、非常に個人差の大きい遺伝性疾患です。原因不明のアザができやすく、しかも何度もできるといったことから診断につながったり、大腸や動脈が自然に裂ける、他の家族がvEDS患者であるといったことから診断されることが多くなります。顔の特徴や薄い皮膚、組織がもろいといった特性がある方もいれば、III型コラーゲン遺伝子COL3A1の変異が見つかったことで診断が付く方もいらっしゃいます。

 

エーラス・ダンロス症候群には非常に多くのタイプがあり、それぞれに特徴や合併症があります。vEDSは命に関わる合併症を引き起こす可能性があることから懸念される疾患です。

 

血管型エーラス・ダンロス症候群の別名

 

血管型エーラス・ダンロス症候群は、vEDS、エーラス・ダンロス症候群IV型、サック・バラバス症候群、エーラス・ダンロス症候群血管型と呼ばれることもあります。

 

血管型エーラス・ダンロス症候群の患者数

 

血管型エーラス・ダンロス症候群の正確な患者数はわかっていません。遺伝子検査によってこの病気が判明した人の数と、その数が全体の患者数をどれだけ正確に表しているかを算出した値とを組み合わせて得られた最良の推定値は、米国の患者数は6,000~8,000人となります。つまり、血管型エーラス・ダンロス症候群の患者さんは、40,000~50,000人に1人であると推定されます。ちなみにこの数はマルファン症候群の患者数の約4分の1です。

 

血管型エーラス・ダンロス症候群の臨床的特徴

 

血管型エーラス・ダンロス症候群の特徴は以下のとおりです。

 

  • 理由もなく自然にアザができる、あるいはアザができやすい
  • 動脈の解離・破裂
  • 消化管穿孔
  • 自然気胸
  • 妊娠中の子宮破裂
  • 薄くて透けて見える皮膚
  • 顔の特徴(薄い唇、上唇から鼻まで続く正中溝、小さな顎、薄い鼻、大きくて黒い、落ち込んだ目)

 

vEDS患者さんの約半数は、ご家族にvEDSの患者さんがおられ、残りの半数は家系内で最初のvEDS患者となります。家系内で初めてのvEDS患者となる場合には、通常、精子卵子で受精前に起こる突然変異が原因です。

 

突然変異による発症(母親がvEDSではなく、赤ん坊がvEDS)の場合、通常、妊娠中の合併症は生じませんが、分娩は数週間早まる可能性があります。vEDSのお子さんの約5%が両足あるいは片足が内反足の状態で生まれます。少数の集団では先天的な股関節奇形がみられたり、さらに少数の集団では、子宮内での線維束収縮が原因で切断が必要となったり、奇形がみられたりすることがあります。周産期(胎児期)において、アザが問題となることはありませんが、子どもが動けるようになるにつれてはっきりと見えてくることもあります。血液の問題を調べる通常の検査では原因を特定できず、おこなうべき検査についてもはっきりしません。vEDSでみられる周産期および幼児期におけるアザに関しては、通常の検査プロトコルの対象となりません。

 

小児期における大きな合併症は非常に稀であり、10歳未満での死亡はさらに稀です。幼児期の後半では、vEDSの顔面的特徴の一部がよりはっきりとし、活動的になることからアザが増えたり、自然気胸を発症したり、結腸(通常はS字結腸)破裂がみられるようになったりします。vEDSの確定診断を受けている人の約25%が、20歳に到達する前に腸破裂や動脈破裂、自然気胸などの重篤な合併症を起こします。一部のvEDSの患者さんでは、外見の早期老化、とりわけ「肢端早老症」(手足の早期老化)がみられることがあります。こうした外見的な特徴があったとしても、vEDSが稀な疾患であること、そしてこの疾患を耳にしただけという臨床医が大半であることから、通常、vEDSが疑われることはありません。

 

動脈破裂や動脈の解離は一般に中型の動脈で起こります(時には大動脈で起こることもあります)。外見的な特徴が、問題のある動脈の場所の手がかりとなることもあります。脳卒中は稀ですが、脳や頚部の血管が関与している可能性もあります。自然に発症する冠動脈の解離では、心筋梗塞の症状が現れることがあります。胸部および腹部の血管の出血では、互いに関連性のない症状が出ることがありますが、腸や肝臓、脾臓、脳への血流が遮断された場合には、血管不全につながることもあります。動脈瘤は多くみられ、解離や破裂の前段階となることもありますが、拡張を伴うことなく、自然に破裂することもあります。

 

変異が特定されたvEDS患者さんの約8割が40歳までに合併症を起こしますが、合併症がきっかけで診断されることが多いことから、頻度に関しては過大評価されている可能性があります。結果的に、大きな合併症を起こしたことのない患者さんについては研究がおこなわれていません。

 

妊娠後期および出産時、vEDS女性には子宮破裂のリスクがあり、正常な女性よりも、腟や子宮頚部の裂傷の可能性がより高まります。また、妊娠後期および分娩後に、わずかですが、動脈破裂のリスクがあります。vEDS女性は妊娠すべきでないと考える医療者は多数ですが、妊娠を経験しないvEDS女性との比較で、妊娠によって生存期間が短くなるということはないようです。vEDS妊婦はハイリスク環境におけるケアを受け、帝王切開による分娩を検討すべきです。

 

血管型エーラス・ダンロス症候群の原因

 

vEDSの患者さんは、一部の方を除き、2つあるCOL3A1遺伝子の片方に変異が起きていますが、両方の遺伝子に変異がある方も少数ですがおられます。また、少数の方では、COL1A1遺伝子に変異が認められます。この遺伝子変異は、動脈瘤や動脈破裂の原因となりますが、古典的なエーラス・ダンロス症候群に似通った特徴を示します。

 

COL3A1遺伝子には、III型コラーゲンに変化するIII型プロコラーゲンの鎖(proα1(III))を作るよう、細胞に指示するための情報が含まれます。III型コラーゲン分子のそれぞれに3本の鎖が含まれており、この鎖は、2つあるCOL3A1遺伝子の各々から半分づつ作られます。子どもができると、2つある遺伝子の片方のみが子どもに受け継がれます。変異したCOL3A1遺伝子が子どもに受け継がれると、その子どもはvEDSの親と同じような外見となり、vEDSの特徴を示すようになります。このような遺伝形式を常染色体顕性遺伝と呼びます。COL3A1遺伝子は2番染色体に存在することから、「常染色体」であり、性に関する染色体(X、Y)ではありません。また、疾患を発現するには2つある遺伝子のうちの片方のみに変異があればよいため、「顕性」となります。変異のある遺伝子が支配的な役割を果たすということです。

 

父親か母親のどちらかがvEDSであれば、子どもが変異遺伝子を受け継ぐ可能性は50%です。発症率は男女とも同等です。

 

vEDS患者さんの約半数が、COL3A1遺伝子変異をvEDSの親から受け継いでいます。残りのvEDS患者さんは突然変異(デノボ変異)による発症です。デノボ変異は妊娠のきっかけとなる精子あるいは卵子で生じる変異です。デノボ変異により発症した患者さんは、家系で初めてのvEDS患者となり、親から変異を受け継いだ方と同様、妊娠ごとに50%の確率でvEDSを遺伝させる可能性があります。

 

血管型エーラス・ダンロス症候群の診断

 

vEDSの診断は、既往歴と家族歴の慎重な評価、および主要な特徴が現れているかどうかを判断するために考えられた身体検査に基づきます。これらの手順が済んだ後、COL3A1遺伝子のDNA配列を解析することで診断が確定(あるいは除外)されます。COL3A1遺伝子は、血液あるいは唾液に含まれる細胞、それ以外の組織などから採取することができます。この検査には、DNA配列解析、欠損・重複解析、(タンパク質に基づく)生化学的検査が含まれることもあります。

 

多くのケースにおいて、vEDSが判明するのは、重篤な合併症を発症した後あるいは死亡後です。外見的特徴が軽度の場合には、患者さん本人あるいはご家族が病院を受診せず、結果的に発見されないまま経過する可能性が高くなります。また、希少疾患であるがゆえに、ほとんど検討されず、血管以外の合併症では、vEDSが疑われない可能性もあります。

 

遺伝子検査により、vEDSを引き起こす遺伝子変異の98%が見つかります。残りの2%はより専門的な検査が必要となります。vEDSの主要な特徴が2つみられる場合には、遺伝子検査は強く推奨されます。

 

主要な特徴は以下のとおりです。

 

  • vEDSの家族歴
  • 若年での動脈破裂
  • 憩室疾患などの腸疾患がない状態での腸破裂
  • 過去の帝王切開および/あるいは重篤な膣裂傷がない状態での妊娠第三期におけ
  • 子宮破裂
  • 外傷がない状態での突然の眼球の突出および充血(動静脈頸動脈海綿静脈洞瘻)
  • 血管型エーラス・ダンロス症候群で推奨される管理法

 

軽度の特徴は次のとおりです。

 

  • アザができやすい(突然あるいはわずかな外傷により生じる)かつ/または通常はみられない頬や背中などにできる
  • 静脈が見えるほど薄く透き通った皮膚
  • 特徴的な顔面特徴(薄い唇、小さな顎、薄い鼻、大きな目)
  • 気胸(肺腔内への血液および空気の貯留)
  • 四肢、特に手の早期老化(先端早老症)
  • 内反足(内反尖足
  • 出生時にみられる股関節脱臼
  • 小さな関節が想定される正常可動域を超えて動く
  • 靱帯・筋肉の断裂
  • 静脈瘤の早期発症(30歳未満)

 

家族歴、40歳未満の動脈破裂・動脈解離、原因不明の腸破裂、vEDSの関連症状がみられる状態での自然気胸がある場合は、診断のための検査をおこなうべきです。小さな特徴が複数組み合わされて現れている場合も、同様です。

 

vEDSと診断された患者さんがいる場合、親族についても、臨床検査や分子遺伝子検査によって遺伝学的状態を明らかにすべきです。

 

vEDSの患者さんには以下が推奨されます。

 

  • 緊急時に備え、個人が特定されるようなメディカルアラートブレスレット・ネックレスを身に着け、病気のことが記載された情報カードを携帯する

  • 組織化された医療チームを用意しておく。一般に、vEDSの患者さんの治療は、お住まいの地域でおこなわれることになりますので、各専門医との間で必要な調整ができるかかりつけ医が必要です。専門医には、血管専門医(多くの場合、循環器内科医)、血管外科医、一般外科医、遺伝専門医などが含まれます。専門医同士が連携することで、緊急時の備えができ、日常的な診療が確実におこなわれるようになるはずです。

  • 経過観察の継続。vEDSの多くの患者さんは、血管樹(全身の血管系)を定期的にモニタリングしてもらいたいと思っています。異常が見つかった場合、治療が適切であるかを決定する上で、多くはモニタリングが重要となります。頚動脈エコーや腹部エコーを含め、年一回の身体検査が推奨されることもあります。動脈に問題があることがわかっている場合には、CTAやMRAによる検査が必要となるかもしれません。

  • 服薬に関する医師の指示に従う。確実に血圧が正常域に維持されるよう、血圧の薬を服用することが重要です。関節や筋肉に対する痛み止めの薬が処方されることもあります。

  • 勧められたタイミングで手術を受ける。一般に、外科手術は執刀する医師が、vEDSおよびvEDSに伴う組織の脆弱性について理解していれば、成功する可能性は高くなります。

  • 場合によっては、緊急事態が起こる前に血管や関節の修復手術が必要となることもあります。コントロールされた状態で行われる手術の方が緊急手術よりも望ましく、vEDSの患者さんでは、血管や管腔臓器がもろく、破裂のリスクがあることから、命に関わる出血リスクがある場合にのみ、外科手術が推奨されます。

  • 適切な妊娠管理。vEDSの妊婦さんはハイリスク出産プログラムにおいて管理される必要があります。出生前診断は、両親のいずれかに既知の原因遺伝子であるCOL3A1遺伝子の変異があり、その遺伝子変異がお子さんに遺伝するリスクが高い妊娠において実施することができます。遺伝カウンセリングは治療における重要な側面であり、一般には妊娠前の相談も含まれます。変異のない胚を選んで着床させる着床前診断では、遺伝子変異が子どもに受け継がれるリスクを排除することができます。

  • 理学療法を受ける。vEDSの患者さんの中には、筋肉を強化することで恩恵を得られる方もおられます。理学療法士作業療法士は、怪我なく筋肉を強化するための運動指導を行います。

  • 怪我の原因となるような状況を避ける。vEDSの患者さんは、接触を伴うスポーツ、ウェイトリフティング、急な衝突や体に衝撃が加わるような運動を避けるべきです。

  • 医師の指示にしたがって運動を調整する。vEDSのお子さんの学校での運動は調整が必要となる可能性があります。最も重要なことは、運動および運動強度に関しては、知識の豊富な医師に相談し、定期的におこなっている健康のための日課に安全に組み込めるようにすることです。お子さんが年齢を重ねるにつれ、症状や本人の希望が変わる可能性がありますので、医師との対話は継続する必要があります。vEDS患者さんは早足での散歩や、趣味でおこなうサイクリング、遅いペースでのジョギング、バスケットボールのシュート練習、楽しむためのテニスや水泳、負荷のかからないような軽いウェートを使った運動など、勝ち負けを競わず、会話ができるペースでできる運動をすべきです。軽度のvEDSのお子さんでは、「衝突を伴わない」スポーツにおける競技環境での成功例があります。

  • 定期的に結腸内視鏡検査および動脈造影検査を受ける。これらの検査は、命に関わる出血を処置するための前段階として、出血箇所を特定する目的に限定して慎重におこなわれるべきです。

  • 緊急事態に備える。vEDSは、動脈破裂や臓器破裂の可能性があることから、エーラス・ダンロス症候群の中でも最も重篤な型とされています。急な胸痛や腹部痛が現れた場合には、直ちに緊急処置室に向かってください。手術を要する破裂などの動脈や腸の合併症は、MRAやMRI、CTなどの検査でわかります。vEDS患者さんは、緊急時に救急隊に伝える内容について、かかりつけ医から聞き取りをしておいて下さい。vEDS患者さんのご家族は、緊急対応先となる最寄りの病院に、vEDS患者がいることを事前に伝えておくことも必要です。

 

血管型エーラス・ダンロス症候群の寿命

 

vEDS患者さんの現在の推定寿命は、遺伝子検査の結果、陽性であることが判明した方々の病歴に基づきます。軽度のvEDS患者さんでは未診断のケースが多いことから、この結果は幅広い臨床症状の中でも、より重症度の高い集団の結果に偏ったものと考えられます。この集団の平均寿命は51歳でしたが、遺伝子変異の種類によって、著しい違いがあります。例えば、「ヌル」変異と呼ばれる、機能していないCOL3A1遺伝子が片方のみで、正常なIII型コラーゲンが半分程度作られる遺伝子変異がみられる患者さんでは、米国の平均寿命と同等の、ほぼ平均的な寿命となるようです。また、グリシン置換を起こす変異、および正常なタンパク質の生成を阻害する変異をお持ちの患者さんでは、一般に寿命が短くなります。推定寿命は集団に基づく結果であり、それよりも長くなったり、短くなったりすることがあります。必ずしも、患者さん個々の寿命の予測に役立つとは限りません。

 

出典:

https://marfan.org/wp-content/uploads/2021/04/VEDS-Fact-Sheet.pdf

 

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