海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

奇跡と信念 ― 夫の生命を救ったもの

今月はロイス・ディーツ症候群啓発月間ということですので、私の夫であるクレイグのエピソードをご紹介します。皆さんに興味を持っていただける内容だと思っています。なぜなら、長身で手足と指が長く、側弯症と動脈瘤があることを除けば、夫にはロイス・ディーツ症候群の外見的な特徴はほとんど現れていないからです。実際、このエピソードがなければ、彼に問題があるとは夢にも思わなかったことでしょう。

 

元々夫は医師を志しており、ミッドウェスタン大学に在籍していました。ですが、土壇場になって、医学部に進むべきでないと強く感じ、家に長くいられる仕事に就きたいと考えたのです。そこで、私達はアリゾナ州への引っ越し準備を進め、夫はアリゾナ・ハート病院で一年間の画像検査プログラムを受け始めました。プログラムは受講生同士がお互いの心臓を検査するという内容で、夫の大動脈は多少拡張していることがわかりましたが、高身長だったこともあり、心配にはあたらないということでした。

 

とはいうものの、循環器の先生に相談したところ、心配する必要はないけれども、数年おきに検査は受けたほうがいいということになりました。

 

プログラムを終了し、働き始めてしばらく経ったある日、家に検査機器を持ち込んだ夫は、遊び半分で子どもたちの心臓をスキャンしていました。そして、家族の目の前で自身の心臓をスキャンしているうちに、表情が険しくなり、引きつった笑みを浮かべました ―― 「病院に予約を入れなくっちゃ」 一年も経たないうちに、彼の大動脈は1.8cmも太くなっていたのです。急に恐怖に襲われた私達は、遺伝子検査を受けなければ、と考えました。まず二人が疑ったのは、マルファン症候群でした。

 

循環器内科の予約をしたものの、当日医師は現れず、対応したのは女性看護師。しかも、その看護師はマルファン症候群のことを知りませんでした。それでも彼女は、夫の年齢と健康状態を考えると、動脈瘤ができるはずはないから、別の病院を予約して検査してもらったほうがいいと助言してくれました。

 

別の病院の循環器内科医は、マルファンの方向で考えることに同意してくれましたが、遺伝子検査には乗り気ではありませんでした。というのも、夫には特徴がほとんど見当たらなかったからです。さらに医師は、眼科での検査結果に問題がなければ、マルファンの可能性は安心して除外できると付け加えました。眼科での検査結果は問題なしとのことでしたが、それゆえ一層、遺伝子検査が必要だとの思いが募っていきましたが、検査に消極的な医師しかおらず、自己負担での検査となりました。

 

遺伝子検査の結果が戻ってきました ―― マルファン症候群は陰性、ロイス・ディーツ症候群は陽性。この結果に私達夫婦は困惑することになりました。ロイス・ディーツ症候群に関しては全く聞いたことがなかったからです。ですが、色々と調べたり、この病気に最も詳しい、国内の複数の専門家に相談したりした結果、ロイス・ディーツ症候群とは、マルファン症候群の厄介な親戚のような疾患であることがわかりました。この2つの疾患はともに結合組織疾患で、心臓や血管の組織がもろくなったり、瘤ができたり、解離の原因となったりするのですが、ロイス・ディーツ症候群では、心臓だけではなく、全身に動脈瘤や解離を生じるのです。

 

マルファン症候群やロイス・ディーツ症候群の患者の皆さんに相談したところ、ジョンズ・ホプキンス病院のディーツ先生に電話するようにとのアドバイスをいただきました。問診後、ディーツ先生から一刻も早くスタンフォード大学病院で手術を受けるように言われ、かなりのショックを受けました。大動脈に動脈瘤が出来ていることはわかっていたものの、深刻に捉えていた医師は他に誰もいなかったように思えたからです。ディーツ先生は、ロイス・ディーツ症候群では外科手術の目安となる値がかなり低くなると教えてくれました。手術適応となる大動脈の太さは4cmで、それより大きなサイズでは解離や破裂のリスクが格段に高まるとのことでした。夫の動脈瘤はこの時点で5.1cmに到達していました。

 

数ヶ月に及ぶ保険会社とのバトルを終え、やっとこさ夫の新たな勤務形態に合う保険プランへと切り替えることができたので、フェニックスにあるメイヨー病院にいる新たな専門医を訪れました。初診でディーツ先生と同じくスタンフォード大学病院ですぐに手術を受けるように言われ、最後に受けたCT検査の結果に基づけば、動脈瘤はこの数ヶ月で5.3cmの大きさになっていることを伝えられました。

 

スタンフォード大学病院の予約を済ませると、それはそれは恐ろしい救急車の乗り換えを何度か経験しながら、カリフォルニア州へと入り、スタンフォード大学病院での手術に漕ぎ着けることができました。その間、夫の動脈瘤はなんとか持ちこたえてくれました。

 

手術を受ける夫を救急車から下ろした朝のことは忘れられません ―― これで助かるという安堵、打ちのめされるほどの恐怖、手を握って彼に寄り添っていたいという想い ―― こうした感情が入り乱れていたのですから。入電やメールでの手術の近況報告を逃すまいと、数分置きに携帯電話を確認していました。

 

13時間後、執刀医から手術終了の電話が入りました。万事うまくいったとのことでした。まず初めに伝えられたのは、無事到着したのは奇跡だということ。そして、体外循環に切り替え、切除しようと触れた瞬間、執刀医の手の中で瘤が破裂したということ ―― このエピソードを毎日のように思い出し、夫に起きた奇跡を振り返る自分がいます。そして、一歩、また一歩と夫を導き、強引なまでに私達を突き動かした天国の父なる存在に感謝を捧げているのです。

 

もしも夫が医学部に進学していたら ―― もしも循環器内科の先生達の助言に従ってモニタリングを続けていたら ―― 私達の人生は予想だにしない結末を迎えていたと思います。こうした些細な、あるいは時に些細とはいえないような成り行きに対しても、感謝の念を抱かざるを得ません。なぜなら、それらは文字通り命を救うきっかけとなるからです。これから先、幾多のハードルが待ち構えていることは理解しています。ですが、次に待ち受ける困難を認識できるということは有り難いことなのです。その困難とは、残酷で身の毛もよだつ運命とは違った姿をしているのですから。

 

マルファン症候群やロイス・ディーツ症候群が理解されていないがために、経過観察中に死亡したり、解離を発症して緊急手術を受けることになる大人や子どもはどのくらいいるのでしょうか?これまでの経験から、私達患者を直視しながら、そんな疾患は聞いたことがないと一蹴する医師は腐るほどおり、腸が煮えくり返ります。

 

ロイス・ディーツ症候群やマルファン症候群に関して、皆さんの啓発のためにお伝えできることがあるとすれば、循環器の先生やかかりつけ医が夫のように大動脈基部に動脈瘤がある患者を診察する場合、5~10分ほど長く時間をとってもらいたいということです。動脈瘤や解離についての家族歴の聞き取りに1分、腕や指、足の指や顎のライン、側弯や視力、柔軟性や関節の柔らかさをチェックするのにさらに数分間費やしてもらいたいのです。より多くの医師がこれらの疾患について調べ、全ての特徴が現れていなくとも、その疾患に該当する可能性があるのだということをわかってほしい ―― これが私の願いです。

 

出典:

www.loeysdietz.org

 

The Loeys-Dietz Syndrome Foundation, a division of The Marfan Foundation, did not participate in the translation of these materials and does not in any way endorse them. If you are interested in this topic, please refer to our website, loeysdietz.org.

The Marfan Foundation の一部局である The Loeys-Dietz Syndrome Foundation は、当翻訳には関与しておらず、翻訳内容に関してはいかなる承認も行っておりません。このトピックに興味をお持ちの方は、 loeysdietz.org にアクセスしてください。