海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

マルファン症候群に対する大動脈手術の進歩

2020年8月20日

Lars G. Svensson, MD, PhD

 

 

はじめに

 

私がマルファン症候群に興味を持ったきっかけは、かなり昔になりますが、南アフリカで高校生活を送っていた頃に遡ります。クラスにマルファン症候群の同級生がいました。彼がその病気について語るのを聞いた私は、70年代から80年代の医学部そして外科での修行時代を通して彼の言葉が頭から離れませんでした。

 

80年代後半はBaylor College of Medicineで心臓血管外科のフェローとして、マルファン症候群あるいはマルファン症候群に似た症状の患者さんを多く診察しました。151名の患者さん全員のデータを集め、ゲント基準に従って一人ひとりの分類を試みていました。そのプロセスにおいて、ゲント基準を完全には満たさないものの明らかに何らかの結合組織疾患である患者さんが多いことを発見しました。そのような患者さんでは、大動脈解離のタイプおよび家族歴に違いがあり、一部の患者さんでは大血管で動脈瘤がみられたり、脳動脈瘤がありました。女性では僧帽弁疾患が多い傾向にありました。

 

そうした方々は「マルファン様(よう)」患者と呼ばれていましたが、今日では一部の方はロイス・ディーツ症候群あるいはマルファン症候群の基準をわずかに満たす遺伝性胸部大動脈瘤であることがわかっています。(当時はこうした分類はありませんでした)

 

1989年、我々は『Circulation』誌にマルファン関連疾患の外科手術についての論文を投稿し、大動脈解離を発症した患者さんではその後も複数回手術が必要となり、全生存率は一般集団と同等ではないことを指摘しました。マルファン症候群あるいはマルファン様症状の患者さんの平均余命はわずか32歳だったのです。

 

コンポジットグラフト術による転帰改善

 

早期介入により、マルファン関連疾患の患者さんの長期予後は改善することが明らかになっていました。

 

当時、コンポジットグラフト(機械弁付き人工血管。大動脈弁と大動脈基部を一度に交換できる)を用いて、問題のある大動脈弁を置き換える手術を行っていました。結果は非常に良好でした。コンポジットグラフト術により、マルファン関連疾患患者さんにおける長期的な脳卒中の発症率は、大動脈弁の置換だけを行った患者さん、あるいは大動脈弁の置換と大動脈基部の手術を別々に行った患者さんより低下したように思われます。また、最初に大動脈基部の手術を行わなかった場合、多くの患者さんで大動脈基部に瘤を生じ、再度来院が必要となることが分かりました。

 

コンポジットグラフト術については様々な術式を研究しました。最も有名なのはベントール原法です。この術式では、大動脈弁、大動脈基部、上行大動脈をコンポジットグラフトで置換し、inclusion法により冠動脈をグラフトに再吻合します。inclusion法とは、冠動脈口吻部をボタン状にくり抜いたものを、グラフトの別々の箇所に吻合する方法とは異なる方法です。

 

ベントール術は何十年にも渡り施行され、改良が加えられてきました。その中でも1990年代前半に我々が行った、より確実にグラフトを固定する改良は注目に値するものです。

 

当時、コンポジットグラフト術を施行した348名の患者さんを対象とした研究で術後の心発作傾向があることがわかり、右冠動脈につながるチューブグラフトで生じていたねじれが一因となっていることを突き止めました。そこで我々はチューブグラフトの位置に修正を加えることで、テンションを低減させてねじれを防ぐようにし、心発作の発症率を低下させることができました。とりわけ、再手術が必要となった患者さんや急性大動脈解離を発症し大動脈基部の置換が必要となった患者さんでは、左主冠動脈のチューブグラフトへの吻合およびbutton法による右冠動脈のグラフト本体への直接吻合による転帰が最も良好となりました。

 

自己弁温存大動脈基部置換手術はremodeling法からre-implantation法へ

 

2013年、Cleveland Clinicの我々のチームが178名の患者さんを対象とした研究を発表し、マルファン症候群あるいはマルファン様症状を認める患者さんに対する自己弁温存大動脈基部置換手術では、remodeling法はre-implantation法よりも失敗する可能性が高いことを示しました。発表のタイミングはまさに、我々がマルファン症候群の手術でremodeling法を中止した時期でした。

 

re-implantation法は今や結合組織疾患および大動脈基部拡張の患者さんに対する自己弁温存術のスタンダードとなっており、実際、2019年12月の時点でre-implantation法による施術は1,000例を超えており、術中死亡リスクは非常に低いです。また、我々がマルファン症候群患者さんに行った心血管手術も1,000例を超えています。

 

手術成功率を高めるべく特別な手技や修正による改善を行い、優秀な長期成績を収めています。

 

我々の研究によると、re-implantation法の10年以内の失敗リスクはわずか5~7%であることがわかりました。言い方を変えると、re-implantation法を受けた患者さんの93~95%は術後10年は再手術の心配はないということです。また、そうした患者さんの90%は20年以内に再手術を受ける必要はおそらくないでしょう。

 

健康で長生きは可能

 

今日では上に述べたような外科手術の進歩により、マルファン症候群の患者さんは素晴らしい結果を期待できるようになりました。もちろん、大動脈解離の発症前に手術を受けた場合です。

 

幸いなことに、手術を受けるタイミングについても我々が策定に協力した基準のおかげで判断がしやすくなりました。大動脈基部の断面積と身長の比率を求めることで、手術タイミングを客観的に決定できます。この値が10を超える場合には大動脈基部が大きく膨らみ大動脈解離のリスクが高いということを意味しますので、手術が推奨されます。現在、この比率は米国心臓病学会の胸部大動脈疾患ガイドラインに掲載されています。

 

re-implantation法を受けたマルファン症候群の患者さんでは、今後の大動脈解離のリスクは非常に低くなります。ですが、血圧コントロールの薬や動脈瘤の形成リスクを下げる薬は忘れずに飲み続けてください。

 

マルファン症候群の心血管治療は、過去30年で格段に進歩しました。今日では先進的な外科手術法により好ましい結果がもたらされ、患者さんは健康で長生きできるようになったのです。

 

Svensson医師について

 

2020年9月10日 19:30-20:30(米国東部標準時)に行われる International E3 Summitでマルファン関連疾患の成人に対する大動脈手術についてのプレゼンテーションを行う予定。

 

出典:

blog.marfan.org

 

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