- はじめに
- マルファン症候群とは?
- マルファン症候群の原因は?
- マルファン症候群の遺伝経路
- マルファン症候群の特徴は?
- マルファン症候群が疑われる場合はどうすべきか?
- マルファン症候群の診断法は?
- 遺伝子検査を検討すべきか?
- 診断的評価からわかること
- マルファン症候群による情緒的・心理学的影響
はじめに
マルファン症候群は重篤な疾患であり、一部の合併症は命に関わる可能性があります。医療の進歩により、適切な診断・治療を受けることで、マルファン症候群の方も通常の寿命を全うできるようになりました。
マルファン症候群とは?
マルファン症候群は結合組織疾患です。結合組織は身体のあらゆる構成要素をつなぎ合わせ、身体の成長をコントロールする役目があります。結合組織は身体の至るところに存在するため、マルファン症候群の特徴は全身の様々な部位に現れます。最も影響を受けやすい部位は、心臓・血管・骨・関節・眼ですが、肺や皮膚に影響が出ることもあります。マルファン症候群は、知能には影響しません。
マルファン症候群の原因は?
マルファン症候群は、FBN1遺伝子の変異により引き起こされます。FBN1遺伝子は、結合組織の重要な一部であるフィブリリン1と呼ばれるタンパク質の作り方を身体に伝えます。この遺伝子における変異がマルファン症候群の特徴の原因であり、この変異により様々な障害が生じます。
マルファン症候群の遺伝経路
- マルファン症候群患者の約75%がマルファン症候群の親からの遺伝です。マルファン症候群で影響を受けやすい部位は、心臓・血管・骨・関節・眼です。
- マルファン症候群患者の約25%は親からの遺伝ではなく、遺伝子の突然変異によるものです。つまり、その患者は家系で初めてのマルファン症候群患者となります。
- マルファン症候群患者の子は50%の確率で遺伝子変異を受け継ぎます。
- マルファン症候群は、全人種・全民族の男女5000人につき1人の割合で発症します。
マルファン症候群の特徴は?
マルファン症候群の特徴は身体の様々な部分に現れますが、一人の患者さんにすべての特徴が現れることは稀です。目に付きやすい特徴もありますが、心臓の問題など、見つけるために特別な検査が必要なものもあります。マルファン症候群で一般的にみられる特徴には以下のようなものがあります。
心臓・血管
- 大動脈の膨らみ(大動脈拡張あるいは動脈瘤)(大動脈とは、心臓からの血液が通る太い血管のこと)
- 大動脈解離(大動脈内壁が裂けた場所から、大動脈を構成する膜の層の間に血液が入り込むことで生じる疾患)
- 僧帽弁の軟化(僧帽弁逸脱症)
骨・関節
- 体格に見合わない長い四肢
- 高身長でほっそりした体型
- 背骨の湾曲(側弯症あるいは後弯症)
- 胸骨の落ち込み(漏斗胸)あるいは胸骨の突出(鳩胸)
- 長くて細い指
- 柔軟な関節
- 高口蓋
- 歯の叢生
眼
その他の所見
- 急性の肺虚脱(自然気胸)
- 脊髄を包む硬膜の拡大あるいは膨らみ(硬膜拡張)
マルファン症候群は先天的な病気ですが、人生の後半まで特徴に気が付かないことがあります。マルファン症候群の特徴は年齢を問わず、幼児・10代・高齢者などに現れ、加齢と共に悪化する可能性があります。
マルファン症候群が疑われる場合はどうすべきか?
あなた自身あるいはご家族にマルファン症候群が疑われる場合には、この疾患に精通した医師を探してください。マルファン症候群は珍しい病気ですので、医師であれば誰でも知っているというわけではありません。診断までのプロセスは遺伝専門医に調整してもらうのが理想的ですが、もし遺伝専門医がいない場合には、循環器内科医を受診してください。ただし、マルファン症候群患者の治療実績のある循環器内科医である必要があります。
マルファン症候群に該当する特徴をいくつかお持ちになるかもしれませんが、確定診断にはそれでは不十分です。マルファン症候群に精通した医師に診てもらう以外に診断を確定させる方法はありません。
医師を見つけるには以下のような方法があります。
- ヘルプセンター(800-862-7326 内線126)に電話する
- (Marfan.orgのウェブサイト経由で)医療施設一覧を請求する
- かかりつけ医による紹介
- 最寄りの病院の医師紹介サービスに電話する
家族歴についても知っておく必要があります。Marfan.orgのウェブサイトから、家族歴に関するファイルをダウンロードできます。以下の項目を記入できるようになっています。
- 過去の病気、過去に受けた手術、過去の入院歴
- 服用している薬
- あなた自身あるいはご家族がマルファン症候群と考えられる理由
- マルファン症候群であることが確定している家族の一員、あるいはマルファン症候群の可能性がある家族の一員
- 心臓あるいは血管の疾患により亡くなった家族の一員
マルファン症候群の診断法は?
マルファン症候群の診断は、結合組織疾患に精通した医師らにより、身体のいくつかの部位を検査した後になされます。検査には以下のような項目が含まれます。
- 既往歴あるいは家族歴の精査(マルファン症候群の可能性がある家族の一員あるいは心臓関連の原因不明の病気で亡くなった家族の一員についての情報も含む)
- 精密な身体検査
身体検査ではわからないマルファン症候群の特徴を特定するには、以下のような検査があります。
- 心エコー検査(心臓、心臓弁、大動脈を調べる検査)
- 眼の検査。水晶体のずれを調べる「細隙灯検査」も含まれます。細隙灯検査は瞳孔を完全に開いた状態で行うことが大切です。
遺伝子検査により、有用な情報が得られる可能性があります。
- マルファン症候群の家族歴がある患者さんの場合、家族内で発症リスクのある患者さんの診断を確認したり、診断を除外するのに役立つ可能性があります。
- マルファン症候群のいくつかの特徴は、マルファン症候群の類縁疾患でもみられる可能性があります。そのため、遺伝子検査は医師の検査により診断が確定しない場合に役立つことがあります。
マルファン症候群の特徴が1つ以上当てはまる場合がありますが、そうであってもマルファン症候群の診断が確定しないことがあります。マルファン関連疾患かどうかを確定させるには、他の医師による追加検査およびそれ以外の遺伝子検査が必要となることもあります。
遺伝子検査を検討すべきか?
遺伝子検査を利用して遺伝性疾患の診断を行う場合、かなり複雑なプロセスとなることがあります。マルファン症候群の遺伝子検査にあたり、検査能力と限界を完全に理解するには、遺伝専門医もしくは遺伝カウンセラーからの情報提供が必要となるかもしれません。遺伝子検査のみでは、マルファン症候群かどうかの判断はできません。遺伝子検査が有用と考えられるケースは以下です。
- マルファン症候群の外見的な特徴がなく、親がマルファン症候群であり、遺伝子検査が陽性の子どもの場合、継続して経過観察すべきです。
- マルファン症候群において重視される特徴(大動脈拡張あるいは大動脈解離あるいは水晶体亜脱臼)のいずれかを有し、その他の特徴がなく、遺伝子検査が陽性の場合、その後も経過観察が必要です。
- 臨床評価のみで診断が確定しない場合には、鑑別診断(他の疾患と区別するための診断)において遺伝子検査が役立つことがあります。
- 大動脈瘤や大動脈解離の既往のあるご家庭では、遺伝子検査により、高リスクの方を特定できる可能性があります。
- 出産を考えているマルファン症候群成人では、着床前診断や出産前診断(マルファン症候群が遺伝していない子どもを選択するための診断)を受ける前段階として、遺伝子検査を検討してもよいでしょう。
より詳しい情報については、Marfan.orgにある患者さん向け資料の「遺伝子検査とマルファン症候群」をご参照ください。
診断的評価からわかること
- マルファン症候群:マルファン症候群の診断基準を満たす十分な特徴がある場合
- 何らかの結合組織疾患:マルファン症候群の特徴が十分にない場合。この場合、心エコー検査が推奨されることがあります。
- マルファン症候群の疑い:遺伝子検査によりFBN1遺伝子の変異が認められたが、マルファン症候群の診断基準を満たすほど大動脈径が大きくない場合
- その他の結合組織疾患:マルファン症候群の診断基準を満たさないが、他の遺伝性疾患(エーラス・ダンロス症候群、ロイス・ディーツ症候群、MASS表現型、家族性大動脈瘤、スティックラー症候群、水晶体亜脱臼症候群、僧帽弁逸脱症候群など)が考えられる場合
- 不明:マルファン症候群の特徴はあるものの、既知の疾患の診断基準を満たさない場合
(診断が確定したか否かに関わらず)マルファン症候群の特徴をもつ多くの方は、治療や経過観察が必要となります。自分に適した治療に関しては、主治医にご相談ください。
マルファン症候群による情緒的・心理学的影響
遺伝性疾患をお持ちの皆さんは、社会的・情緒的な問題に直面することがあります。それにより、多くの場合、将来の見通しやライフスタイルを変える必要が生じます。マルファン症候群の診断を受けた成人では、怒りや恐怖を感じることもあります。
子どもへの遺伝を心配したり、きょうだいに対する遺伝的影響に不安になるかもしれません。
マルファン症候群と診断されたお子さんのご両親やきょうだいは、悲しみや怒り、罪の意識を感じるかもしれません。しかし、お子さんがマルファン症候群であることに対して、ご両親には全く責任はないということをご理解いただくことが大切です。
マルファン症候群患者の中には、行動の制限を求められる方もおられます。受け入れがたいライフスタイルの変更が必要となることもあります。
マルファン症候群を抱えて生活する場合でも、適切な医療と正確な情報、社会的サポートがあれば、暮らしやすくなります。遺伝カウンセリングを受けることで、病気や生じうる影響への理解が深まります。The Marfan Foundationのヘルプセンターに連絡し、オンラインサポートやお住いの近くのサポートについて情報を得ることもできます。
注意:マルファン症候群と診断され、以下に示すいずれかの特徴がある場合には、早急にロイス・ディーツ症候群について主治医にご相談ください。ロイス・ディーツ症候群は比較的最近発見された疾患で、マルファン症候群よりも積極的な経過観察と治療を必要とします。
- 動脈がねじれたり、湾曲したりしている(動脈蛇行)
- 大動脈以外の動脈に瘤ができたり、解離が生じている
- 眼と眼の間隔が広い(両眼隔離)
- 口蓋垂(のどちんこ)が幅広い、あるいは二つに割れている
- 口蓋裂(先天的に口の天井が裂けている)
- 内反足(先天的に足が内側や上側に向いている)
- 白目が青色や灰色をしている
- 頭蓋骨が通常よりも早い時期に癒合する(頭蓋骨早期癒合症)
- 先天性心疾患(心房中隔欠損、動脈管開存症、大動脈二尖弁など)
- 皮膚の特徴(あざができやすい、傷が広がりやすい、皮膚が柔らかい、皮膚が薄く血管が透けて見える、など)
- 消化器(胃・腸)の異常(食物を吸収しにくい、慢性的に繰り返す下痢、腹痛、消化器の出血や炎症)
- 食物・環境アレルギー
- 脾臓あるいは腸の破裂
- 妊娠中の子宮破裂
- 頚椎が不安定あるいは頚椎の形成異常(頚椎不安定症)
- 骨の石灰化障害(骨粗鬆症)
- 脳内の液体貯留(水頭症)
- 小脳の異常形状(キアリ1型奇形)
出典:
https://marfan.org/wp-content/uploads/2021/01/Marfan_Syndrome_Diagnosis.pdf