海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

妊娠とマルファン症候群:Russo医師による最新情報

 

2017年5月8日 

Melissa L. Russo 医師

 

はじめに

 

マルファン症候群は結合組織疾患であり、心臓や血管、靱帯、骨に影響を与えます。大動脈は心臓からの血液を全身へと運ぶ主要な動脈です。マルファン症候群や関連する結合組織疾患では、大動脈に瘤ができたり、大動脈が拡張することがあります。これらが原因となり、血管の壁が脆くなったり、血管が裂ける(大動脈解離)こともあります。大動脈解離は悲惨な結果を招く恐れがあり、マルファン症候群患者における死因の第一位となっています。

 

マルファン症候群の妊婦における出産は、個々の状況に合わせた、複雑な判断になります。

 

妊娠成功までの一般的なステップは以下に示されています。

 

  • 計画を立てる:妊娠前に各診療科にて必要な検査を受け、妊娠に関するリスクを事前に把握しておく。
  • 医療チームの編成:マルファン症候群に精通した心臓血管外科医および循環器内科医のいる三次医療センター(専門的な医療を提供する病院)を見つける。妊娠中は、ハイリスク出産を扱う産科医、循環器内科医、麻酔科医、看護師、新生児専門医が必要となる。
  • 一貫した医療指針に従う:通院および心エコーによる大動脈の検査を継続し、医療チームにより策定された、複数の診療科が関わる出産計画に従う。これらは患者自身および新生児が良好な出産を迎える上で重要となる。

 

妊娠や出産に関して、最も多く寄せられる質問は以下のとおりです。

 

マルファン女性の出産が身体や健康に及ぼす影響は?

 

妊娠により、大動脈や血管、心臓への負荷が増加し、全身に送り出される血流量が上昇します。また、妊娠中に上昇するホルモンによる血管への影響も生じるとされています。マルファン症候群の女性は、妊娠中および出産後に大動脈基部の拡張や大動脈瘤、大動脈解離のリスクが高まります。問題なく出産を終える女性が大多数ではありますが、大動脈解離のリスクはあります。

 

また、妊娠によって関節に負荷がかかり、特に、腰や骨盤の痛みが出ることがあります。

 

マルファン女性の妊娠はハイリスクか?

 

ハイリスクと言えます。妊婦の心臓や血管には重篤な合併症(大動脈解離)が生じる可能性があります。

 

以下のような妊娠合併症を生じることがあります。

 

 

合併症のリスクがあることから、マルファン症候群の妊婦はハイリスク出産を専門とする産科医や周産期専門医(母体胎児専門医)を主治医とすることが大切です。

 

妊娠中の大動脈解離リスク因子

 

  • 妊娠中の大動脈解離リスクを判断する上で、妊娠前の大動脈基部の大きさが重要となります。妊娠前の大動脈基部の大きさが4cm以上である場合のリスクは10%、4cm未満である場合は1~2%となっています。結論は出ていないものの、大動脈基部の大きさが4cm以上の女性は、妊娠前に大動脈基部置換を検討することを推奨している専門家もいます。
  • 大動脈基部置換は大動脈基部で起こる解離に対する保護効果はあるものの、大動脈基部を置換した女性は、妊娠中に大動脈の下流動脈瘤や解離を生じるリスクが高くなります。
  • 妊娠中の大動脈の大きさの変化も、大動脈解離のリスク因子とされています。妊娠中の大動脈基部の拡張速度が速い場合、大動脈解離のリスクが高まります。
  • マルファン症候群の女性にとっては妊娠回数も大動脈解離のリスクを上昇させる因子となります。妊娠回数が増えるごとに、大動脈解離の発症リスクも高くなるということです。

 

妊娠前にすべきこと・受診すべき診療科

 

  • 主治医(臨床遺伝専門医、かかりつけ医、内科医など)の検査を受ける
  • 妊娠前にハイリスク出産を扱う産科医(あるいは周産期専門医)を受診する
  • 循環器内科を受診し、心エコー検査とCTあるいはMRIを受け、大動脈や大動脈基部の大きさ、大動脈以外の血管を調べる
  • MRIあるいはCTで脊柱を調べ、硬膜拡張(脊髄を包む袋が膨らむ疾患)の有無を確認する。妊娠において問題となることはないが、硬膜拡張がある場合には、分娩時の痛み止めとして硬膜外麻酔が有効である場合がある
  • 遺伝カウンセリングを受け、子どもにマルファン症候群が遺伝する可能性について相談する。遺伝カウンセラーは、妊娠前あるいは妊娠中に受けることのできる遺伝子検査についても説明してくれる

 

妊娠中に避けるべき薬

 

一部の薬は胎児に悪影響を及ぼします。特に妊娠初期に服用する薬に当てはまります。そのため、妊娠を検討する前に主治医を受診し、代わりとなる薬について相談することが大切です。マルファン症候群の女性が服用することが多く、妊娠中に避けるべき薬は以下の薬です。

 

  • ARB(アンギオテンシン受容体遮断薬:ロサルタンなど)およびACE(アンギオテンシン変換酵素阻害薬:エナラプリル、カプトプリルなど)
  • ワーファリン

 

妊娠中に服用してもよい薬

 

マルファン症候群や関連する結合組織疾患の女性は、妊娠中の大動脈基部の拡張リスクを低下させるため、β遮断薬を服用することが推奨されます。β遮断薬は妊娠中の安全性が高い薬ではありますが、服用中は胎児の成長を注視する必要があります。

 

帝王切開を選択すべきか

 

マルファン女性にとって、通常分娩と帝王切開のどちらが最適な分娩方法であるかについてはわかっていません。大動脈基部の大きさが4cm未満の女性では通常分娩が可能です。しかし、分娩中は大動脈や心臓、血管に負荷がかからないよう、以下のような対策が必要です。

 

  • 痛み止めとして硬膜外麻酔をゆっくりと作用させ、血圧や心拍の上昇を抑える
  • 心拍の持続的監視(心電図による不整脈の遠隔モニタリング)
  • 鉗子や吸引器により通常分娩をサポートし、大動脈や血管にさらに負荷をかける「いきみ」を避ける

 

大動脈基部の大きさが4cm以上ある場合は、大動脈解離のリスクを避けるため、あらかじめ帝王切開を選択することが推奨されます。

 

授乳リスクについて

 

マルファン女性の産後の大動脈解離リスクが、授乳により増加するか否かを調べる研究が進行中です。マウスを使った研究では、授乳により産後の大動脈解離リスクが上昇するエビデンスが存在します。現状の情報では授乳は禁忌とはなっていません。しかし、授乳を選択する場合、産後は循環器内科での入念な大動脈の検査が必要です。

 

妊娠リスクが高すぎる場合の選択肢

 

一つの選択肢としては、ご自身の卵子精子あるいはドナーから提供された卵子精子を用いた代理出産があります。養子縁組も選択肢の一つです。

 

出産前に子どもがマルファンかどうかを調べる方法

 

両親の一方がマルファンの場合、子どもに遺伝する確率は50%、両親ともマルファンの場合は75%です。出生前検査を行うためには、マルファンの親が遺伝子検査を受け、遺伝子変異を調べる必要があります。

 

現状、胎児がマルファンかどうかを調べる方法は2つあります。

 

  • 着床前診断を用いた体外受精。この検査は子宮に胚を着床させる前に不妊治療専門医により行われる。
  • 出生前検査。絨毛採取または羊水穿刺検査は、妊娠初期から中期に胎児細胞に対して行われる。検査による妊娠喪失のリスクはわずかに存在する。

 

妊娠に関する詳細については、The Marfan Foundationのウェブサイトをご覧ください。妊娠・出産に関する資料を無償で提供しています。

 

Melissa L. Russo医師について:

現在はBaylor College of Medicineに在籍中。まもなく、Brown大学のWarren Alpertメディカルスクールの女性・胎児病院内の産婦人科母体胎児医学局に転籍予定。

 

出典:

marfan.org

 

The Marfan Foundation did not participate in the translation of these materials and does not in any way endorse them. If you are interested in this topic, please refer to our website, Marfan.org, for materials approved by our Professional Advisory Board.

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