海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

学校の保健の先生に知ってもらいたいこと

 

 

1. はじめに

 

「米国で学校における看護活動が始まったのは、1902年10月1日のことでした。感染症に対する医療ケアの必要性から、生徒やその家族に介入し、長期欠席を減らすことが、養護教諭の最初の役割でした。養護教諭の役割は当時の活動から大きく拡大したものの、その本質は変わっていません。養護教諭は、学校生活における健康管理、介入、経過観察を通じて、全ての生徒の成功を支援します」(National Association of School Nurses, 2002)

 

1902年から、学校における健康に対するニーズが変わり続けていることから、養護教諭の役割もそれに応じて発展してきました。

 

病気や怪我の予防、スクリーニングプログラムによる病気の特定、全体的な健康管理において、養護教諭は重要な主導的役割を果たします。このことは、より厳格なモニタリングを要する慢性疾患を生徒が抱えている場合には、とりわけ重要となります。そうした疾患の一つが、マルファン症候群です。米国では、マルファン症候群および類縁の結合組織疾患の患者が20万人いると推定されていますが、多くの方の診断が付くのは、生命の危機に瀕してからです。

 

養護教諭は、マルファン症候群の検査が必要な生徒を特定できる唯一のポジションにいます。この疾患について、思いやりのある、専門的なコミュニケーションを行うことは、見過ごされる可能性のある生徒の特定、診断、管理に役立ちます。マルファン症候群の生徒が、通常の寿命を全うできるという希望を持つためには、早期診断と管理が極めて重要です。診断や管理が適切に行われない場合には、大部分ではないにせよ、多くのマルファン症候群の生徒が、30代もしくは40代で、致死的となり得る大動脈解離および大動脈破裂を発症することになります。(The Marfan Foundation, 2000)

 

マルファン症候群とは

 

マルファン症候群は命に関わる遺伝性疾患であり、全身の結合組織に影響が及びます。兆候を知り、適切な診断と必要な治療を受けることで、長く充実した人生を送ることができます。

 

The Marfan Foundationの専門家委員会の推定では、マルファン症候群患者の約半数が自身の病気に気がついていないということです。適切な診断と治療を受けない場合、若年期に突然死するリスクが高まります。マルファン症候群は、全身の細胞や組織を保持する結合組織に影響を与えます。また、結合組織には身体の成長を調整する機能もあります。

 

マルファン症候群にはいくつかの類縁疾患が存在し、これらの疾患でもマルファン症候群と同一あるいは同等な身体的な症状がみられます。これらの疾患を発症している場合も、早期かつ正確な診断が求められます。

 

マルファン症候群の特徴

 

マルファン症候群には、以下のような目に付きやすい特徴があります。

 

  • 長い手足・指
  • 背が高くほっそりとした体型
  • 背骨の湾曲
  • 胸骨の突出・陥没
  • 扁平足
  • 歯の叢生
  • 皮膚のストレッチマーク

 

気が付きにくい特徴は以下です。

 

  • 心疾患、特に大動脈(心臓から全身に血液を運ぶ太い血管)に関わるもの

 

それ以外の特徴には、

 

 

があります。

 

マルファン症候群の原因

 

マルファン症候群は、フィブリリン1と呼ばれるタンパク質の作り方を身体に伝える遺伝子に変異が生じることで発症します。フィブリリン1は結合組織の重要な一部です。マルファン症候群の様々な特徴や症状はこの変異により生じます。

 

マルファン症候群の発症率

 

マルファン症候群を発症するのは約5,000人に1人です。全人種・全民族で男女問わず発症し、マルファン症候群の親から遺伝子変異を受け継いだ子はマルファン症候群を発症します。マルファン患者の約75%が親からの遺伝です。残りの25%は突然変異により発症し、家系で初めてのマルファン患者となります。子に遺伝する確率は50%です。

 

マルファン症候群は先天性の疾患ですが、人生の後半まで特徴に気が付かないことがあります。しかし、マルファン症候群の特徴は、乳児や幼児など、年齢に関わらず現れます。これらの特徴や症状は、年齢とともに悪化することがあります。

 

マルファン症候群の診断

 

マルファン症候群の診断は、結合組織疾患に精通した医師が、身体の複数箇所を検査した後でなされることが一般的です。以下のような検査が行われます。

 

  • 既往歴あるいは家族歴の調査(マルファン症候群の可能性がある家族の一員あるいは心臓関連の原因不明の病気で亡くなった家族の一員についての情報も含む)
  • 通常の身体検査ではわからなかったマルファン症候群の特徴を特定するための精密な身体検査

 

マルファン症候群のいくつかの特徴は、マルファン症候群の類縁疾患でもみられる可能性があります。そのため、医師の検査により診断が確定しない場合に遺伝子検査が役立つことがあります。

 

マルファン症候群の特徴が1つ以上当てはまる場合でも、マルファン症候群の診断が確定しないことがあります。マルファン関連疾患かどうかを確定させるには、他の医師による追加検査およびそれ以外の遺伝子検査が必要となることもあります。

 

マルファン症候群患者の人生

 

医療が進歩したことで診断や治療により、人々は長い寿命と質の高い生活を享受できるようになりました。マルファン症候群のほとんどの患者さんは、働いたり、学校へ行ったり、体を動かす趣味を楽しんだりすることができます。マルファン症候群の患者さんは治療を受け、医療者の助言に従うことが非常に大切です。そうでない場合には、心疾患により突然死する可能性があります。早期に診断されれば、人生の初期に有益な治療を開始できます。また、マルファン症候群の患者さんは安全のため、自分に適した運動をする必要があります。一般に、フットボールやサッカー、バスケットボールなどの激しいチームスポーツはすべきではありません。また、仕事や家庭、ジムなどで、重いものを持ち上げるべきではありません。

 

マルファン症候群において急を要する疾患

 

マルファン症候群の患者さんは、大動脈や眼、肺に緊急性の高い疾患を発症するリスクが高まります。以下に示す疾患です。

 

大動脈解離

 

大動脈解離は大動脈の層と層とが剥がれる疾患です。直ちに治療しない場合、死に至る可能性がありますので、緊急処置が必要となります。マルファン症候群の小児が大動脈解離を発症することは稀ですが、以下のような症状がありますので覚えておいてください。

 

  • 胸の中心部や腹部(胃)、背中の痛み。「激痛」「鋭い痛み」「裂けるような痛み」「引き裂かれるような痛み」と表現されることもあります。痛みは胸部から背部かつ/または腹部へと移動することがあります。それほど痛みを感じない場合もありますが、患者さん本人は強い違和感を覚えます。
  • 吐気
  • 息切れ
  • 失神
  • 脈拍の消失
  • 皮膚のかゆみ、無感覚、灼熱感、穿痛感(知覚障害)
  • 麻痺

 

気胸

 

気胸は空気やガスが肺と胸の間のスペースにたまり、完全に肺が膨らまなくなることで発症します。以下のような症状があります。

 

  • 突然起こる胸痛(鋭い痛みで胸の圧迫感を伴うこともある)
  • 息切れ
  • 頻脈
  • 速い呼吸
  • 疲労
  • 血中酸素レベルの低下により皮膚が青みを帯びることもある(チアノーゼ)

 

網膜剥離

 

網膜剥離は眼の後方にある光を感じる膜(網膜)が、それを支える層から剥がれる疾患です。治療をしない場合、生涯にわたり重篤な視力低下(失明)につながることがあります。

 

以下のような症状があります。

 

  • 様々な大きさ、形、均一性の半透明なシミが眼の中に現れる
  • 視界の周囲にキラキラした明るい光が見える
  • 視界がぼやける
  • 片目の視野の一部が暗くなったり、見えなくなったりする

 

マルファン症候群の類縁疾患

 

マルファン症候群の類縁疾患はいくつか知られており、マルファン症候群に似た身体的問題を引き起こします。これらの疾患の患者さんも早期かつ正確な診断が必要になります。以下のような疾患です。

 

  • 家族性胸部大動脈瘤・解離(FTAAD):マルファン症候群の特徴の中でこの疾患の患者さんに関係するものは大動脈拡張のみです。大動脈解離による突然死のリスクがありますので、マルファン症候群の心疾患の治療に従ってください。
  • MASS表現型:マルファン症候群の特徴の中でこの疾患の患者さんに関係するものは、僧帽弁逸脱、軽度の大動脈拡張、骨格的所見、皮膚のストレッチマークです。大動脈拡張が止まるまでの間、1~2年に一度心エコー検査を受けてください。その後は、少なくとも5年に1度同検査を受けるようにしてください。
  • 水晶体亜脱臼症候群:この疾患の患者さんが関係するマルファン症候群の特徴は、水晶体亜脱臼と骨格的所見です。この疾患の大部分の方が、大動脈の太さは正常ですが、人生の後半になると拡張するリスクがあります。2~3年に一度心エコー検査を受けてください。
  • ビールズ症候群:ビールズ症候群ではマルファン症候群にみられる多くの骨格的所見、また、関節の拘縮(膝や肘などの関節を伸ばしきれない状態)、耳の奇形、大動脈拡張がみられます。大動脈拡張のある方は年に一度心エコー検査受けてください。
  • ロイス・ディーツ症候群:ロイス・ディーツ症候群の患者さんでは、マルファン症候群でみられる骨格的所見や大動脈や動脈の瘤の他、マルファン症候群ではみられない動脈のねじれ、両眼隔離症、口蓋垂裂(のどちんこが2つに割れている所見)などの所見があります。大動脈の太さによっては、マルファン症候群よりも早期に心臓の手術が必要となることがあります。
  • エーラス・ダンロス症候群:可動域の広い不安定な関節、柔軟性のある”伸びる”皮膚、脆弱な組織を特徴とする遺伝性結合組織疾患の一種です。

 

マルファン症候群の類縁疾患の多くは、大動脈の拡張がみられる遺伝性疾患でもあることから、定期的な治療が必要となります。マルファン症候群の診断、治療法、研究における進歩は、類縁疾患に関する診断、治療法、研究の進歩にもつながる可能性が高くなります。

 

本資料ではマルファン症候群が主な対象となりますが、紹介する管理法は類縁疾患の多くに当てはまります。

 

また、マルファン症候群の診断は複雑であり、目に付きやすくなるまでに時間を要する特徴もあることから、低学年の生徒ではマルファン症候群の正式な診断ができないことがあります。こうした症例を「マルファン症候群の疑い」とすることもあります。マルファン症候群の特徴がいくつかみられるものの診断が付いていない生徒については、時間をかけて経過観察することが必要です。

 

2. 検査が必要な生徒を見つけるために

 

マルファン症候群の生徒を見つけるにあたっての養護教諭の役割

 

マルファン症候群の診断のために養護教諭が呼び出されることはありませんが、生徒の外見的特徴を識別し、病院で詳しい検査を受けるよう生徒の親御さんに促すという点では、重要な役割を担っています。

 

ほぼ全ての学校で実施されている以下のような検査では、マルファン症候群の疑いを強める機会となっているものがあります。

 

  • 全身的特徴
  • 体位検査
  • 視力検査
  • 体格指数(BMI)検査
  • スポーツ参加のための予備検査

 

全身的特徴

 

一つの外見的特徴の有無では、マルファン症候群かどうかを判断することはできません。マルファン症候群の生徒は、高頻度で急激に成長します。例えば、マルファン症候群の多くの子どもは、2歳までに95パーセンタイルを超える身長となります。結果的に、こうした生徒は他のクラスメートよりも目立つことになりますので、他の特徴がないか調べるべきです。

 

体位検査

 

マルファン症候群であることを明らかにするうえで、可能性として考えられる骨格の特徴の一つが、側彎症です。多くの学区で側彎症のスクリーニングプログラムを実施することになっています。そのため、このプログラムは、マルファン症候群の特徴があり、その後の検査を受けることになる子どもを見つけるための、最良の機会となっているのではないかと思われます。

 

マルファン症候群の患者さんの約半数が側彎症を発症しますが、治療が必要となるのは、そのうちの3分の1にすぎません。側彎症だからといって、侵襲的治療が確定するほど重篤ではない可能性もあるので、この病気を疑うきっかけとなれば十分と言えるでしょう。側彎症の生徒がいたら、それ以外の特徴がないか観察してください。

 

視力検査

 

マルファン症候群の患者さんは、レンズのずれ(水晶体亜脱臼)や網膜剥離、近視を経験することが多くなります。学校で行われる検査では、視力低下(おそらくは原因不明)がわかるかもしれませんし、生徒から奥行きがわかりにくいとの訴えがあるかもしれません。近視は一般集団でも比較的多い所見ですので、近視の生徒がマルファン症候群だと思い込んではいけません。近視に加え、他のマルファン症候群の特徴があれば、詳しい検査が必要となります。

 

体格指数(BMI)検査

 

学校で行われる他の検査と同様、BMIも考慮しながら、マルファン症候群の特徴を見つけることが大切です。ほっそりとした体型で背が高い、あるいは、ほっそりとしていて家族の中でも高身長、かつ、他の特徴が見られる場合には、詳しい検査が必要であることを意味しています。

 

マルファン症候群の生徒は痩せていることが多いため、クラスメートや教師、養護教諭から、摂食障害の疑いを持たれることがあります。摂食障害には多くの注目が集まることから、痩せはマルファン症候群の特徴の一つであって、メンタル的な問題ではないことを理解してもらうのが難しいことがあります。

 

マルファン症候群の患者さんが太りにくい理由は医師にもわからず、体重や筋肉を望み通りに増やす特別な食事や栄養補助食品、ウェートリフティングプログラムは存在しません。

 

スポーツ参加のための予備検査(PPE)

 

マルファン症候群の若者の多くは、非常に高身長かつ関節が柔らかい特徴を持ちます。これらはアスリートでは望ましい特徴とされることから、スポーツへの参加を促されることが多くなります。一般に、学校で行われるスポーツに参加する全ての生徒は、参加を許される前に精密検査を受けることが期待されています。検査が適切に行われるのであれば、PPEは診断の付いていない個人を特定する素晴らしい機会となります。しかし、PPEの実施形態の質および対象範囲は、州ごとに大きく異なります。

 

アスリートの事前スクリーニングに関する米国心臓協会(AHA)の推奨事項は以下のようになっています。

 

  • 若年アスリートにおいて、突然死や疾患増悪の原因となることが知られている心血管病変を特定する(もしくは、疑う手掛かりとする)ために考案された、完全かつ慎重な個人・家族の既往歴の調査および身体検査は、競技スポーツのアスリート集団のスクリーニングにおいて、年齢を問わず、最適かつ最も実践的なアプローチである。こうした心血管スクリーニングは、実現可能な目標であり、全てのアスリートに義務付けるべきである。団体スポーツへの参加前に、既往歴の調査と身体検査を行い、2年ごとに繰り返すことを推奨している。
  • アスリートのスクリーニングは、心血管に関する詳細な既往歴を確実に入手し、身体検査を行い、心疾患を識別するために必要なトレーニングを終え、求められる医療スキルとバックグラウンドを有する医療従事者により、実施されるべきである。
  • アスリートのスクリーニングにおいては、以下を判定できるような重要な質問を含むべきである。
    1. 労作性の胸痛/胸の不快感もしくは失神/失神に近い症状に加え、運動に伴う過度で 想定外かつ原因不明の息切れ、あるいは倦怠感が過去にあったかどうか
    2. 心雑音もしくは全身血圧の上昇が過去にあったかどうか
    3. 早期死亡(突然死など)の家族歴、もしくは50歳以下の近親者に心血管疾患による重度の障害があったかどうか、肥大型心筋症、拡張型心筋症、QT延長症候群、臨床上重要な不整脈、マルファン症候群といった疾患の発症に関する具体的な情報があるかどうか
  • PPEのデザインおよび内容には不均一性が見られることから、スポーツ参加のための予備的医学的評価に対する国家基準を満たすことが推奨される。

 

3. 詳しい検査が必要と思われる場合にどうするか

 

マルファン症候群は比較的稀であり、外見に現れる身体的特徴の重症度には、大きなばらつきがあることから、私たちの専門家委員会は、マルファン症候群の患者さんの約半数は、自身がこの病気であることを知らないと推定しています。適切な診断や治療が行われない場合には、大動脈解離および突然死のリスクが高くなります。

 

定期的な検査の結果、詳しい検査が必要であることが判明した場合、養護教諭には、医師に精密検査の相談をするよう、生徒の親御さんを促すという重要な役割があります。

 

マルファン症候群の検査のために生徒を病院に紹介する場合は、その理由をきちんと説明する必要があります。

 

資料の最後に、親御さんへのお手紙のサンプルとマルファン症候群の特徴に関するチェックリストがあります。これらを使うことで、お子さんにマルファンの疑いがあることを親御さんに伝える際に、過度の不安を与えずに済むかもしれません。

 

4. マルファン症候群の生徒に対する配慮

 

全身の複数の組織がマルファン症候群による影響を受けることで、学習や授業参加に対するハードルが生じます。生徒それぞれが直面する困難に応じ、適切な処置をすることが求められます。以下のような症状が生じます。

  • 視力低下(軽度から重度)—視力に障害がある生徒向けの教師(TVI)やオリエンテーション・アンド・モビリティ(Q&M)・スペシャリストが必要となることもある。
  • 疲労(薬剤性)
  • 息切れ(心臓あるいは/または肺の症状)
  • 鉛筆の把持困難(関節が緩いことに起因、日が経つごとに悪化する可能性がある)—理学療法士あるいは/また作業療法士が必要となることもある
  • 慢性痛(特に背中と関節の痛み)
  • 頭痛
  • 運動は心臓や血管に大きな負担を与えることから、マルファン症候群の生徒は、特定の競争的スポーツや接触を伴うスポーツを行うべきではありません。体育教師は、The Marfan Foundationが公開している運動ガイドラインを参考に、生徒に合った体育の計画について生徒の主治医に相談すべきです。
  • 持ち運ぶ荷物の重量制限(教科書をもう1セット用意して、家に置くことも考える)
  • マルファン症候群の生徒では、ADD(注意欠陥障害)やADHD注意欠陥多動性障害)の発症率が高いと考える医師もいる。マルファン症候群の生徒であっても、一般集団の子どもと同じ検査、治療戦略、配慮が必要となる。

 

マルファン症候群の生徒は、通常、多くの時間を病院で医師と過ごし、検査を受けることになります。一部のケースでは、手術やリハビリなどの治療のために学校を休まざるを得ないこともあります。このような経験をうまく乗り越える生徒もいる一方で、ストレスを感じたり、恐怖を感じる生徒もいます。

 

IEP(個別教育計画)および504プランとは?

 

マルファン症候群では認知障害は生じないものの、副次的な影響として学習障害や感情的トラウマ、不安定なメンタル状態に陥る生徒もいます。こうした精神症状は、対応困難な身体的特徴や手術、痛みに直接関与していることもありますし、薬の副作用として生じる場合もあります。

 

このような理由から、IEPや504プランが必要となるマルファン症候群の生徒もいます。

 

IEPは然るべき生徒が特別教育と関連サービスを受けられるよう、IDEA(個別障害者教育法)によって規定されています。IEPでは詳細な査定が義務付けられているものの、広範なサービスや支援が提供されます。また、保護者が積極的に教育に関与する権利を与えています。しかし、認定されるための必要条件が多く、特別教育の一部であることから偏見も残されています。

 

504プランは1973年に制定されたリハビリテーション法第504条に基づき成立しました。学校での配慮が必要ではあるものの、特別教育の適応とはならなかった生徒向けの制度です。IEPよりも504プランの方が認定されやすくなっていますが、504プランでは受けられるサービスが少なくなります。また、504プランが守られていること保証する法的保護もIEPより少なくなります。さらに504プランはIEPとは異なり、保護者がほぼ関与しない場合でも、採用されたり、変更されたりする可能性があります。

 

IEP、504プラン共に、家で使うための教科書一式の追加提供から、車椅子用傾斜台の提供といった配慮がなされることがあります。両制度とも毎年審査を行い、更新されることになります。

 

IEPあるいは504プランは以下の目的で制定されています。

 

  • 生徒が学校で自立できるようにする。
  • 生徒の受容と自己肯定感を支援する。
  • 生徒が各自の制限の範囲内で学校に適応し、対処できるようにする。
  • 予測可能な怪我から生徒を守る。
  • 生徒、保護者、学校関係者の間で、学校における身体上のニーズや配慮についてのコミュニケーションを円滑にする。

 

教師、学校管理者、保護者が1つのチームとなり、生徒にふさわしい制度を決定し、協力して作り上げていく必要があります。

 

IEPあるいは504プランが最も効果を発揮するのは、通常のやりとりにおいて、チームの各メンバーが他のメンバーとも情報共有する場合です。しかし、チームのメンバーであれば、生徒の学校での近況を保護者に伝えることができるので、必ずしも他のメンバーをやりとりに加える必要はありません。他のメンバーを加える目的は、できるだけ多く、生徒に関する率直で開かれたありのままの情報をやりとりするためです。生徒の体調に変化があったり、学校で対応が必要となった場合には、必要に応じてチームでの話し合いが行われるべきです。

 

学区ごとに、IEPや504プランを作成するためのテンプレートが用意されているはずです。どちらの制度を利用するにせよ、マルファン症候群の生徒に日常的に生じる問題は数多く存在します。

 

IHP(個別医療プラン)、ECP(緊急医療プラン)とは

 

マルファン症候群の生徒は、IEPおよび504プランに加え、養護教諭が用意するIHPおよびECPも必要になります。担任の教師もこれらの制度を理解しておく必要があります。

 

IHPは学校生活において生徒が必要とする医療サービスの概要を記載したものです。養護教諭が、生徒、家族、教師、学校関係者、医療提供者と協力して作成します。IHPには、生徒の身体的・精神的な健康状態、教育活動の他、学校関係者への指示内容が記載されています。必要に応じて、少なくとも年に一度見直す必要があります。

 

ECPは生徒の病気や緊急時の連絡先(家族、医師、病院、救急サービス)が記された短めの文書(通常1ページ)です。養護教諭の他、教師、校長、生徒の生活に関わる他の大人が、一部づづ携帯し、すぐに見られるようにしておく必要があります。

 

マルファン症候群による影響と必要な配慮

 

マルファン症候群の生徒が参加する体育の授業では、カリキュラムの変更が必要となったり、体育以外の活動を行うことになる可能性があります。また、学校関係者や教師は、治療や手術のため、生徒が長期的に欠席する必要があることを理解し、受け入れることも大事です。生徒が他のクラスメートに遅れを取らないよう、全ての教育関係者と家族が連携することが求められます。

 

マルファン症候群で影響を受ける身体の各部と必要とされる配慮を以下に示します。

 

心臓・血管

 

症状

  • 不整脈
  • 僧帽弁逸脱
  • 大動脈基部拡張・大動脈瘤
  • 大動脈解離(就学年齢の子どもが発症することは比較的稀ではあるが、症状が現れた際には緊急処置を要する)

影響

  • 疲労
  • 持ち運ぶ重量の制限(例:背負うバックパックの重量、持ち運ぶ教科書や持ち上げる箱の重量)
  • (心拍数や血圧を上昇させる)活動の制限
  • 処方薬によっては一日のうちの様々な時間帯に薬を服用せざるをえないこともある

配慮

  • 生徒からのあらゆる訴えを真剣に受け止める
  • 保健室に自由に出入りできるようにする
  • 日中に休息が必要なことを考慮した上で、学業に支障が出ないよう、学校でのスケジュールを調整する
  • 授業スケジュールやグループ活動を調整し、授業間の移動が少なくなるようにする
  • 授業間の移動時間を多く取る
  • 自宅で使えるように教科書一式を余分に用意したり、使えるロッカーを増やすなど、重量制限に配慮する
  • 体育の授業内容を調整したり、体育の代わりとなる活動を用意する

 

骨・関節

 

症状

  • 高身長かつ腕や脚が異常に長い(クラスメートよりも遥かに背が高くなることがある)
  • ゆるい関節・柔軟性のある関節
  • 筋肉の発達不良
  • 痛み(慢性痛の場合が多い)
  • 漏斗胸・鳩胸
  • 背骨の湾曲
  • 扁平足

影響

  • 標準サイズの机やイスに身体が合わない
  • 長時間座っていることができない
  • 長い距離を歩くことが難しい
  • 通常の体育や野外活動への参加が難しい
  • 重い本を長い距離にわたって持ち運ぶことができない
  • 長時間の筆記が困難
  • 関節の怪我をしやすい
  • 筋肉疲労
  • 身体の外見を気にする
  • 重度の生徒では車椅子の利用を要することがある(稀)

配慮

  • 特別サイズの机やイスを用意する
  • 座っていられない場合には立つことも許可する
  • 授業間の移動時間の確保
  • 授業間の移動が少なくなるような授業スケジュールの調整
  • ホームルームやロッカーの場所を授業が行われる教室の近くにする。また、もう一つのロッカーを別な場所に設置する
  • 痛みが出た場合に備え、必要に応じて保健室に行けるようにする
  • 体育の授業のカリキュラムを変更したり、体育の代わりに別の活動を行えるようにする
  • 自宅で使えるように教科書一式を余分に用意したり、各授業で教科書を配布するなど
  • 生徒が授業毎に複数の教科書を持ち運ばなくてもいいようにする
  • 手書き文字の評価を厳しくしない
  • 筆記試験では時間を多めに取る
  • 筆記の宿題に関しては、筆記を担当するサポート役を用意したり、ノートパソコンやタブレットの使用を認める
  • 車椅子の利用を認める(必要な場合)
  • 体育の授業では別の更衣室を用意する

 

 

症状

  • 重度近視
  • 水晶体亜脱臼
  • 網膜剥離のリスク(頻度は高くないものの、発症した場合には緊急処置を要する)

影響

  • 視力の変動
  • 長時間読み続けることができない
  • 小さいフォントや薄い色のフォントが読みづらい
  • 黒板や電子黒板、プロジェクタースクリーンが見えづらい

配慮

  • 文字の大きな教科書を用意する
  • 学校の教材(宿題、テストなど)は暗めで見えやすいフォントを使う
  • 黒板に近い席にする
  • 視覚障害に配慮した設定のパソコンを使わせる

 

 

症状

  • 喘息
  • 睡眠時無呼吸
  • 気胸(緊急処置を要する)
  • 漏斗胸あるいは側弯症による肺機能低下(息切れの原因となる)

影響

  • 教室間の移動に時間がかかる可能性がある
  • 通常の体育の授業や野外活動に参加できない可能性がある
  • 心身の疲労

配慮

  • 授業間の移動時間を多くし、教室の位置に配慮した授業スケジュールにする
  • 薬の服用や休憩のため、必要に応じて保健室を利用できるようにする
  • 喘息の発作に備え緊急での吸入器使用を認める
  • 体育の授業内容を調整したり、体育の授業の代わりの活動を行うようにする
  • 休憩の時間を多く確保できるよう、学業の要件を緩めることなく学校のスケジュールを調整する

 

神経

 

症状

  • 硬膜拡張(脊髄を包む硬膜が広がったり、膨らんだりする所見。頭痛や腰痛、腹痛、脚の痛み、などの原因となる)

影響

  • 痛み(多くは慢性痛)により、長時間集中したり、長く座った姿勢を保つことができない
  • 通常の体育の授業や野外活動ができない
  • 期限までに学校の課題を終わらせることが難しい

配慮

  • 必要に応じて保健室に行けるようにする
  • 休憩の時間を多く確保できるよう、学業の要件を緩めることなく学校のスケジュールを調整する
  • 学校の課題の提出期限を延長してもらう
  • 症状を和らげるための薬を飲むなど、不快感に対処することを認める

 

 マルファン症候群の生徒が直面する社会的・心理学的問題

 

マルファン症候群の生徒は、他のクラスメートとは外見が異なり、平均より身長が高く、非常にやせていてひょろっとした体型になりがちです。分厚いメガネをかけ、ストレッチマークが出たり、漏斗胸や鳩胸となることがあります。側弯症や足の問題のためにコルセットや装具が必要となることもあります。

 

それらに加え、かなりほっそりとした体型であることから、体重が増えないことが往々にしてあります。これが原因で、摂食障害が疑われることがありますが、どれだけ食べても、幼年期を通じて体型は変わらないかもしれません。

 

こうした身体上の違いが原因で、自意識過剰となり、いじめの標的とされることがあります。特別な配慮を受けていることも、状況の悪化につながる可能性があります。

 

教室でマルファン症候群についての教育を行うことで、そうしたイメージを払拭し、いじめを防ぐことができます。教室あるいは学校全体でマルファン症候群についてのプレゼンテーションを開くことも有効です。プレゼンテーションには、マルファン症候群の生徒や生徒の家族が参加できるような工夫をしてもよいでしょう。

 

5. 体育と運動に関するガイドライン

 

定期的な運動は心身の健康改善につながり、マルファン症候群の生徒の日常に安全に取り入れることができます。マルファン症候群の生徒であっても、体育の授業に参加したり運動を行うべきですが、安全を優先し、個々に応じた調整が必要となります。

 

運動に調整が必要な理由は、大動脈への過度のストレスを減らし、胸部や眼の外傷およびゆるい靱帯や関節の怪我を避けるためです。運動ガイドラインは、安全なレベルで行う運動による恩恵を受け、同時に、マルファン症候群によって生じる問題が運動によって悪化しないことを目的にしています。

 

マルファン症候群の生徒の運動で考慮すべきこと

 

一般に、マルファン症候群の生徒の大部分は、個々のニーズに応じた低強度・低負荷の運動を定期的に行うことが推奨されます。大動脈が損傷したり、眼に怪我を負うリスクがあるため、接触を伴うスポーツは避けるべきです。勝ち負けを競うようなスポーツやウェイトリフティングなどの負荷の大きな運動も、大動脈にストレスがかかることから避けてください。

 

しかし、どのような運動であっても強度の調整は可能であり、全ての状況に当てはまるような助言はできません。例えば、私有道路でのバスケットボールのシュート練習と、コート全面を使ったバスケットボールの試合とは異なりますし、自転車で平坦な道を時速10マイル(約10キロメートル)で進むのと、勝敗を競うトライアスロンとは別物です。

 

マルファン症候群の生徒がいるご家庭は、運動強度について主治医に相談し、体育の授業や健康のためのルーティンに、無理なく運動を取り入れられるようにすることが重要となります。

 

マルファン症候群が疑われる場合の運動

 

マルファン症候群あるいは類縁疾患が疑われるものの診断が確定しない、あるいはマルファン症候群であることは確定しているが、その時点で大動脈拡張がみられないというケースもあります。こうした状況では、運動ガイドラインに従ってよいものかどうか悩ましいところです。

 

運動の安全性を決める要素はいくつかあります。どの程度診断が疑われるか、マルファン症候群あるいは類縁疾患の家族歴があるか、若くして心疾患でなくなった家族がいるか、患者の年齢、運動強度などです。運動強度の安全なレベルを決める上で、眼、骨格、心臓、大動脈、肺の所見が重要になります。

 

お子さんを担当する循環器内科医や遺伝専門医などの専門医に、安全とされる運動レベルについて相談することが最善といえます。

 

運動の種類

 

運動はいくつかの特性により分類されます。

 

  • 有酸素運動はエネルギーを作り出すために酸素が消費される強度で行われる運動です。筋肉が必要とする酸素量と身体が筋肉に酸素を供給する能力は釣り合いがとれています。運動中に会話を続けられるようであれば、その運動は有酸素運動レベルといえます。
  • 無酸素運動では、酸素が不足することで体内のエネルギー源を使わざるを得ないものの、それもすぐに枯渇してしまうことで、疲労につながってしまいます。無酸素運動は一般に強度が高く、それゆえに組織や心血管系により大きな負荷がかかります。
  • 等速性運動とは、可動域のほぼ全てで筋肉が収縮するような運動です。ボールを投げる時の腕の筋肉や走る時の脚の筋肉などがこの動きに該当します。
  • 等張性運動とは、筋肉が動いていない状態で収縮するような運動です。重いウェートを持ち上げたり、重い家具を押すなどがこの動きに該当します。等張性運動では血圧が大きく上昇することから、心臓や大動脈に負荷がかかります。

 

大部分の運動やスポーツは、等速性運動や等張性運動として筋肉を使いながら、有酸素運動無酸素運動と同じようにエネルギーを消費するようになっています。運動と必要なエネルギーの比率は、運動の特性、積極性、チームスポーツの場合はポジションなどによって決まります。スポーツは衝突(接触)のリスクや強度によって分類されます。

 

運動の分類

以下の表は、米国小児科学会が策定した分類に修正を加えたものです。多くのスポーツは強度に基づいて、いくつかのカテゴリーに分類されます。重要なことは、保護者の方がお子さんの主治医に、安全な運動とはどのような運動であるか、そして、運動中の運動強度が問題のないレベルであることを確認するにはどうしたらよいかを尋ねることです。

 

低強度かつ非接触の運動における安全性を最大限に高めるには、必要な措置を取ることが大切です。例えば、ゴルフクラブの入った重いバックを持ち運ばない、あるいは勝ち負けを激しく競うことは避けるといったことです。

 

接触の頻度:高

運動強度:高

バスケットボール

ボクシング

フィールドホッケー

フットボール

アイスホッケー

ラクロス

格闘技

ロデオ

(水上)スキー

サッカー

レスリン

接触の頻度:低

運動強度:高

野球

サイクリング(高負荷)

体操

乗馬

(アイス・ローラー)スケート

ダウンヒルクロスカントリー)スキー

ソフトボール

スカッシュ

バレーボール

接触の頻度:無

運動強度:高

エアロビダンス(高負荷)

ボート競技

ランニング(高速)

ウェイトリフティング

接触の頻度:無

運動強度:中

エアロビダンス(低負荷)

バドミントン

サイクリング(娯楽的)

ジョギング

水泳(娯楽的)

卓球

テニス

接触の頻度:無

運動強度:低

ゴルフ

ボーリング

ウォーキング

 

薬が運動に与える影響

 

運動を始める前あるいは運動の種類を増やす場合には、主治医から現在の健康状態や飲んでいる薬を確認してもらうことが大切です。主治医からのアドバイスはあくまでも一般的なものですので、かかりつけ医からの助言に置き換わるものではありません。

 

マルファン症候群の多くの生徒は大動脈への負荷を減らすためβブロッカーを服用しています。βブロッカーは休息中あるいは運動中の心拍数を低下させますので、運動した割に達成したい目標に到達することが幾分難しくなります。

 

だからといって、マルファン症候群あるいは大動脈に瘤のできやすい疾患の方が、負荷の大きい、あるいは接触を伴うスポーツをしてもよいということではありません。マルファン症候群の患者さんの中にはアンギオテンシン受容体拮抗薬(例 ロサルタン)あるいはアンギオテンシン変換酵素阻害薬を服用している方もおられますが、これらの薬は負荷の高い運動から大動脈を守る効果はありません。

 

人工弁を装着している生徒は通常、抗凝固薬であるワーファリンによる治療を受けています。ワーファリンは血栓の生成を阻害しますので、あざができやすくなったり、内出血のリスクが高まったりします。ワーファリンを飲んでいる生徒は、頭部や腹部に衝撃を受けるリスクがある接触を伴うスポーツや活動を避けてください。

 

マルファン症候群の生徒向け運動ガイドライン

 

マルファン症候群の生徒向けに修正を加えた運動ガイドラインを以下に示します。

 

  • 低負荷の有酸素運動のペースでできる非競争的等速性運動
    特に、突然の停止や急な方向転換、他の選手や装具、地面と接触する可能性が最小限であり、疲れた時にはいつでも休むことができるスポーツが適する。一例として、速いペースでのウォーキング、娯楽的なサイクリング、ゆったりとしたジョギング、バスケットボールのシュート練習、ゆったりとしたペースのテニス、1~3ポンド(約450~1360グラム)のダンベルを使ったトレーニングなど。
  • 週に3~4回、1回あたり20~30分間行うことのできる運動
    時間が取れない場合には、1回10分の運動3回でも30分の運動1回分と同程度の効果がある。
  • 有酸素運動レベル(限界の50%)で行う
    βブロッカーを服用している場合には心拍数を100回/分以下、βブロッカーを服用していない場合には心拍数を110回/分未満に抑えるようにする。
  • 等張性運動(ウェイトリフティング、ロッククライミング、腕立て伏せ)を避ける
    エアロバイクやステップマシーンを利用する場合は、最も負荷の軽い設定で行う。重い負荷で数回繰り返すよりも、軽い負荷で何度も繰り返す方が安全性が高い。
  • 限界に挑まない
    学校の体力テストを受けている生徒やアスリートの過去を持つ生徒は抵抗を感じる。
  • 保護具を身に付ける
    例えば、サイクリングでは常に高品質のヘルメットをかぶるようにする。

 

子どもを安全な運動に導くには

 

成人が新たにマルファン症候群と診断されたのであれば、運動の見直しが必要であることを受け入れることができます。しかし、子どもが診断された場合、運動の見直しは保護者にとって大きな不安材料となります。

 

多くのご家庭でスポーツは幼少期の大きな部分を占めています。スポーツチームの一員となることで、社会的スキルや自尊心を育むことができます。お子さん(および保護者)にとって突然運動を制限されることはかなりのストレスであり、大きな動揺を生むことは当然のことです。お子さんがスポーツに夢中になっていたり、才能に恵まれている場合にはなおさらです。

 

マルファン症候群の生徒向けの運動ガイドラインは、大動脈に負荷がかかり、胸部や眼への受傷の原因となり、柔らかい靱帯や関節を損傷するような、競争の激しい、接触を伴うスポーツは避ける、となっています。しかし、身体上の危険を上回る懸念もあります。

 

少年サッカーを考えてみましょう。これ自体は激しく競い合うというより娯楽的なスポーツであるため、マルファン症候群のお子さんにとっても危険とは考えられません。小さなお子さんが大動脈解離を発症することは非常に珍しいからです。しかし、子どものサッカーでも中学生以上となると、より激しさを増します。何年間も取り組んできたスポーツを諦めるように言われることで、属してきた社会的集団や自尊心は衝撃を受け、情熱や才能を費やしてきた活動を人生から奪い去られることになるのです。

 

お子さんが幼い頃に診断を受けたのであれば、保護者や教師は長期的に続けられる活動に導くことをおすすめします。ゴルフやボーリング、アーチェリー、ピアノ、芸術、音楽などが一例です。これらの活動は創造力や競争力のはけ口となる一方、生徒が必要とする社会的な交流の場を与えることができます。

 

大学のスポーツ奨学生である時分に診断を受け、運動制限を課されることは、とりわけ悲劇的で、人生を激変させてしまいます。かといって、運動以外の選択肢を選ぶことも難しいことがあります。運動制限への対応が難しかったり、生活スタイルの変化を求められ、気持ちが落ち込んでいるような場合は、カウンセラーに相談することで解決できる可能性があります。The Marfan Foundationも、マルファン症候群のお子さんがいらっしゃる保護者の方が、直接あるいはオンラインのサポートグループで、他の保護者の方と話す機会を用意しています。また年次総会では、お子さん、ティーン、10代後半の若者向けに特別プログラムを提供しています。

 

マルファン症候群の生徒向けの配慮

 

マルファン症候群の生徒が最も安全な環境で運動に参加し、最大限の恩恵を受けられるよう、体育教師は、生徒を担当する医療チーム(特に循環器内科医)および保護者と協力しなければなりません。

 

マルファン症候群の生徒全てに安全とされる単一の運動プログラムを作ることはできません。生徒の主治医は、体育教師に、生徒にとって安全と考えられる運動レベルに関する情報を提供すべきです。体育教師はその情報に基づき、体育の授業内容を決めることができます。体育教師が体育の授業計画リストを主治医に提供することも有益かもしれません。

 

また、生徒が自己の能力や限界について現実的な認識をもてるようサポートが必要かもしれません。生徒の理解力が誤解される可能性があることを理解することも大切です。マルファン症候群の生徒の多くは、高身長ゆえに実際よりも年上に見られるからです。

 

一般的な配慮

 

  • 「パーソナルベスト」の考え方を奨励し、生徒間の競争をできるだけ少なくし、クラスメートからの同調圧力を低下させる
  • 安全なレベルの運動強度や運動継続時間を守るよう言い聞かせる
  • 胸の痛みや呼吸困難といった生徒からの訴えを受け入れるようにする
  • ウォームアップやクールダウンの時間を十分与える
  • 荒天時には、生徒の状態を注意深く見守る(暑さや寒さにより身体への負荷が高まり、生徒の持久力や運動量に影響する可能性がある)
  • マルファン症候群の子どもは軽~中強度の非競争的な運動(息切れせず、心拍数が一定のレベルに保たれる運動)を行うことが推奨される

 

マルファン症候群の生徒を担当する体育の教師は、生徒が服用している薬について認識しておく必要があります。一部の薬は心拍数を下げる効果があるため、測定された心拍数は生徒の運動量の指標とはなりません。

 

マルファン症候群の生徒は、筋肉の発達不良や関節の弛緩・拘縮が見られることが多く、筋肉量が少なかったり、筋緊張が低下していることがあります。

 

こうした生徒に対しては、筋肉を強化する運動が有効な場合があります。筋肉と靱帯を両方鍛えられる運動を集中的におこなってください。ですが、運動はウェートを使い、15~20回問題なく繰り返すことのできるものに限定する必要があります。重量のあるウェートを使った運動や、激しい等速性運動は避けてください。学校の外で理学療法を受ける選択肢もあります。学校の体育で理学療法の足りない部分を補ってもらえるよう、保護者に生徒の理学療法士との調整役になってもらえるようお願いしてください。

 

装具の装着に伴う変更点

 

  • コルセットを装着したまま運動する場合、動きや柔軟性、スピードや持久力が低下する可能性があります。体育教師はコルセットによる運動制限について整形外科医から情報を得ておくべきです。運動中に背部や胸部のコルセットを装着する場合、頭部や頚部も保護パッドで保護することが必要です。
  • 生徒が胸部の手術を受けていた場合には、外科医は体育教師に必要な運動制限について伝える必要があります。
  • マウスガードが必要となる運動の場合、マルファン症候群の生徒では狭い口に合わせたオーダーメイドのマウスガードが必要となることがあります。
  • ヘルニアのある生徒では、ヘルニアバンドを装着する他、適切な持ち上げ方についての指導が必要となります。マルファン症候群の生徒向けの体育の授業では、ものを持ち上げたり、よじ登るような運動は最小限に留めてください。

 

疲労への対処法

 

  • 運動時間を短くする
  • 運動エリアの縮小
  • 休憩時間をこまめに取る
  • 生徒のペースに合わせ、必要に応じて休めるようにする
  • 勝ち負けに関わる精神的なプレッシャーがかからないようにする

 

衝突・接触への対処法

 

  • 生徒が動ける範囲を決める
  • 生徒それぞれに合った運動をさせる
  • ルールを変える(例:硬いボールではなく、スポンジボールにする)
  • 体格、能力、ニーズによってグループ分けを行う
  • 明確で適切な指示、ルール、規則にする
  • 運動エリアに障害物や障害、危険物などを置かない
  • 運動に応じて、施設や装具に適切な緩衝材などを施す

 

視覚・知覚障害、運動機能障害への対処法

 

  • 明るい色の用具を使う
  • 柔らかい素材の用具を使う(例:スポンジ)
  • キャッチしやすくするためにマジックテープを使う
  • 距離を短くする
  • 用具のサイズを大きくし、スピードを落とす(例:ソフトボールではなくウィッフルボールにする)
  • 危険のない運動エリアにする
  • 運動エリアを明るくする
  • 運動開始前に運動エリアの確認を行う

 

推奨される運動カリキュラム

 

幼稚園~小学3年生

  • 動きを探求するような活動、組織性の低いゲーム(上記の制限を設ける)

 

小学校4年生~中学3年生

  • アーチェリー、ビリアード、ボードゲーム、ボーリング、サイクリング(エアロバイクや娯楽目的で行うもの)、クロケット、ダンス・リズム運動(リズム要素のあるもの、歌、伝統的な遊び、ソーシャルゲーム)、ダーツ、ゴルフ、体操(バランス競技)、蹄鉄投げ、リラクゼーション運動、シャッフルボード、ウォーキング、水中スポーツ(水に関する安全ルールや泳ぎ方の習得、プールで行う運動)

6. 付録

 

養護教諭から親御さんへの文書サンプル

 



マルファン症候群チェックリスト

 



出典:

https://marfan.org/wp-content/uploads/2021/01/Need_To_Know_School_Nurse.pdf



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