海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

肺とマルファン症候群

 

はじめに

 

マルファン症候群および関連疾患をお持ちの多くの方は、肺の合併症、つまり肺疾患に罹患します。マルファン症候群の方は、肺に問題があると思われる場合には、呼吸器専門医(肺専門医)を受診することが重要です。

 

マルファン症候群の方の肺の問題は、多くの様々な要因が組み合わさった結果生じたものと考えられます。以下のような要因があります。

 

  • 脊柱側湾症(背骨の湾曲)や胸骨の異常(肺機能が制限され、軟部組織の炎症を引き起こす)

  • 脆弱な呼吸筋(肺機能が制限される)

  • 気腔の拡大を伴う肺の成長不全(突然の肺虚脱(自然気胸)や肺気腫を引き起こす)

  • 気道の機能不全(喘息や慢性気管支炎の原因)

 

マルファン症候群に多い肺疾患

 

 発症する可能性のある肺疾患には以下があります。

 

拘束性肺疾患

 

マルファン症候群の方の約7割は、拘束性肺疾患です。拘束性肺疾患では、胸が膨らみにくくなり、十分な呼吸ができなくなります。そのため、身体に必要な酸素量を取り込むことが困難になります。マルファン症候群の拘束性肺疾患では、筋力の低下や側弯症、後弯症、胸骨の重度の凹みといった構造的な問題により、利用できる肺の空間が狭くなり、肺の拡張能力に支障が生じることがあります。拘束性肺疾患により、呼吸が困難となり、軽い活動における息切れ、咳、喘鳴、胸痛などを引き起こすことがあります。

 

突然の肺虚脱(自然気胸

 

マルファン症候群による影響により、肺虚脱(気胸)が起きる可能性があります。この所見は通常は命に関わることはありませんが、緊急事態です。

 

肺虚脱は、肺と胸壁との間に肺から空気が漏れ出ることで生じます。胸腔内の過剰な空気により、肺に圧力がかかり、肺が虚脱することがあります。自然気胸の典型的な原因は、心尖部ブレブまたはブラと呼ばれる肺胞の破裂です。このようなブレブは肺が脆弱となった箇所です。ブレブが破裂すると、肺の周囲の空間に空気が送り込まれ、肺がつぶれることがあります。マルファン症候群の肺の場合、突然の肺虚脱が再発性であったり、両肺で生じたり、肺気腫を伴うことがあります。

 

肺虚脱の症状は、息切れ、乾咳で、しばしば突然の胸膜性胸痛(深呼吸をすると悪化する痛み)を発症します。この痛みは大動脈解離や心臓発作と混同されることもあり、救急外来での検査が必要です。重度の気胸では、酸素不足、胸の締め付け、疲れやすさ、頻脈などから、肌の色が青みがかることがあります。

 

肺気腫

 

肺気腫は、肺にある小さな空気嚢の壁が損傷して、使用済みの空気をすべて肺から押し出すことができない状態です。マルファン症候群の方の約10~15%が肺気腫に罹患していますが、診断が不十分な場合もあります。症状には、活動中の息切れ、頻繁な気管支炎(一般的な風邪やウイルスの定着が原因となることが多い)、および低血中酸素があります。胸部レントゲン、CTスキャン、肺機能検査、動脈血検査により診断が確定します。

 

喘息

 

喘息は、気道が炎症を起こして狭くなる慢性的(長期的)な肺の病気です。喘息の治療に使用される薬(β-作動薬)の多くは、マルファン症候群の方が大動脈の拡張をコントロールしたり、遅らせるために服用する、βブロッカーなどの薬の効果を打ち消すことがあるため、喘息の正しい診断はマルファン症候群の方では重要です。喘息の疑いがある場合は、他の医師と連携しながら治療のできる呼吸器専門医に診てもらうことが重要です。

 

睡眠時無呼吸

 

マルファン症候群の方の中には睡眠呼吸障害(睡眠時無呼吸)の方がいますが、いくつかの原因が考えられます。一つ目の理由は、気道内の結合組織の弛緩です。睡眠中に弛緩が進むことで、空気の流れが部分的に遮断されてしまいます。同年齢、同体重、同身長の人を対象とした研究では、マルファン症候群患者の方が、そうでない方よりも睡眠時無呼吸が多くみられるとされています。残念ながら、多くの場合、マルファン症候群患者では、睡眠時無呼吸は十分な診断が行われていません。一般集団では、睡眠時無呼吸と診断される方の大部分は肥満ですが、マルファン症候群の方は一般に太り過ぎることはないため、しばしば見過ごされたり、鑑別の候補とならないことがあります。

 

睡眠時無呼吸がマルファン症候群に多くみられる理由として、気道の組織が柔らかい、口蓋が高くアーチ状になっている、下顎後退症(顎が小さい、あるいは凹んでいることで気道が閉塞する可能性がある顎の変形)などの頭部や顔面の異常があるとされています。

 

睡眠時無呼吸が未治療の場合、マルファン症候群で特に懸念される大動脈壁へのストレスを引き起こす可能性があることが研究で明らかになっています。そのため、睡眠時無呼吸が疑われる場合には、診断と治療が非常に重要になります。睡眠時無呼吸が疑われる場合は、正しい診断を受けるために呼吸器専門医(肺専門医)を受診することが重要です。

 

睡眠時無呼吸群の症状は、慢性的な(継続的な)大きないびきやいびきの一時停止、それらに続く窒息や喘ぎです。これらは仰向けで寝ているときに悪化し、横向きで寝ているときには軽快します。多くの場合、家族やベッドを共にする方が、先にこれらの症状に気づきます。他の症状としては、日中、仕事中、運転中の眠気、朝の頭痛、起床時の口の渇きや喉の痛みなどがあります。睡眠時無呼吸の方に眠気が起こるのは、睡眠中に呼吸が一時停止したり、呼吸が浅くなったりすると、深い眠りから軽い眠りへと移行し、睡眠の質が低下するためです。

 

マルファン症候群での肺疾患の治療法

 

拘束性肺疾患

 

呼吸機能を改善する、背骨の湾曲(脊柱側湾症)を早期に矯正することを除き、胸壁のサイズを正常に戻す他の外科的処置は必ずしも有効ではありません。そのため、治療法の決定にあたっては、患者さん個人の外見的および機能的な懸念に対処するために個別に行われるべきです。

 

喘息や肺気腫など、他の気道疾患がある場合には、拘束性肺疾患が悪化することがあります。QOL(生活の質)の改善のためには、酸素補給と肺のリハビリテーションが推奨されます。

 

リハビリテーションは、呼吸療法士、理学療法士作業療法士、食事療法士または栄養士、心理士、ソーシャルワーカーなどの専門家が関わり、栄養カウンセリング、エネルギー節約法、呼吸法といった一連の活動や治療を行うものです。リハビリテーションプログラムは、身体的および社会的パフォーマンスを最適化できるよう、個人に応じて定められており、QOLに影響を与える息切れのある患者さんに適しています。肺リハビリテーションの目標は、一般的に、息切れの症状を軽減し、適切に肺が機能する能力を高めることです。QOLが改善した場合でも、肺の機能を測定する肺の検査では、変化がない場合があります。

 

肺虚脱(気胸

 

聴診の際、肺虚脱を起こしている肺では呼吸音の減弱や消失が確認されることがあります。診断は、胸部レントゲンや胸部CT検査、動脈血ガス測定(血中酸素と二酸化炭素の量を測定)によって行われます。自然気胸が起きている範囲に基づいて、考えられる進行度と最善の治療法が決定されます。

 

症状を自覚した場合、重症度を見極めるために、すぐに医師の診察を受けることが重要です。また、自分がマルファン症候群であり、将来的に大動脈手術が必要になる可能性があることを外科医に伝える必要があります。それにより、外科医が適切な治療を推奨しやすくなります。

 

「軽度の」肺虚脱の病院での治療は、酸素補給と安静にすることです。場合によっては、針を使って肺の周りから余分な空気を抜き取り、肺が完全に膨らむようにします。小さな気胸であれば、多くの場合、治療もせずとも自然に治ります。

 

「中度から重度の」気胸では、胸部チューブによる空気の排出(肋骨の間から胸腔内にチューブを挿入して空気が排出されやすくすることで、再び肺が膨らむようにします)を行います。肺が自然に膨らまない場合は、胸膜癒着術を行うこともあります。胸膜癒着術は、肺を胸壁に癒着させるために肺の表面を「傷つける」外科手術です。気胸の治療だけでなく、気胸の再発予防にも役立ちます。

 

マルファン症候群の方に最適な胸膜癒着術は、化学的胸膜癒着術ではなく、機械的胸膜癒着術です。外科医が手を使って機械的胸膜癒着術を行います。胸膜(胸腔を補強し、肺を覆う薄い組織)をガーゼで優しくこすります。機械的胸膜癒着術では、胸膜のこすった部分が治癒した際に肺が胸壁に癒着するよう、荒く削ります。マルファン症候群の方が将来、心臓手術が必要となった場合、機械的胸膜癒着術であれば、手術がしやすくなることから望ましい方法です。マルファン症候群を診察する医師は、いずれ全てのマルファン患者さんで大動脈置換術が必要なることを前提とすべきです。

 

肺気腫

 

肺気腫の標準的な治療法は、酸素補給、気管支拡張剤(気管支を開く薬)の投与、積極的な感染症治療です。他にも有効と思われる方法が研究されています。

 

喘息

 

マルファン症候群の方の多くは、大動脈にかかる圧力を和らげるためにβ遮断薬と呼ばれる薬を服用します。しかし、喘息の標準的な治療には、逆の効果を持つβ作動薬が使われます。β遮断薬は、重度の喘息や反応性気道疾患を持つ小児には使用すべきではないため、他の選択肢について医師と相談する必要があります。

 

睡眠時無呼吸

 

睡眠時無呼吸は、睡眠検査と身体検査により診断されます。睡眠検査では、睡眠の質や睡眠障害に対する体の反応を測定します。睡眠検査には、睡眠ポリグラフと呼ばれる検査や家庭でのポータブルモニターを用いた検査があります。

 

身体検査では、過剰な組織や肥大した組織がないかどうかをチェックします。睡眠時無呼吸が疑われる小児では、扁桃腺が大きくなっている可能性があり、睡眠時無呼吸が疑われる成人では、口蓋垂(のどちんこ)や軟口蓋(喉の奥の上部)が肥大していることがあります。

 

睡眠ポリグラフでは、血中酸素量、呼吸時に鼻から入る空気の動き、いびき、胸の動きを記録します。多くの場合、睡眠センターや睡眠検査室で行われます。ポータブルモニターを使用した家庭での睡眠検査では、睡眠ポリグラフと同様の測定を行いますが、自宅のベッドで快適に行うことができます。

 

軽度の睡眠時無呼吸の場合には、生活習慣の変更や口腔内装置と呼ばれるマウスピースによる治療を行います。マウスピースは顎と舌を押し下げることで、睡眠中に気道が開かれた状態を維持します。

 

持続陽圧呼吸療法CPAP)は、多くの専門家によって、中等度から重度の睡眠時無呼吸に対する最も有効な治療法であると考えられています。CPAPにより、酸素の補給を行います。CPAPで使うマスクは、睡眠時に鼻や口を覆うように装着し、装置に接続されます。その装置により、鼻孔から持続的に空気が送られ、喉に優しく空気を吹き込みます。鼻孔に流れ込む空気の陽圧で睡眠中の気道を開き、呼吸が妨げられないようにします。

 

マルファン症候群の方は、フィットするマスクを見つけるのに苦労することもあります。いくつかのマスクを試着し、自分に合うマスクを見つける必要があります。また、マスクがしっかりフィットするよう、特別なマウスピース(下顎前進装置)などが必要となる場合があります。

 

手術が有効な方もいます。手術は気道を広げるために行われます。通常、口や喉の余分な組織の縮小、硬化、除去や下顎の調整が含まれます。小児で扁桃腺が気道を塞いでいる場合は、扁桃腺を切除する手術が有効な場合があります。

 

日常的にできること

 

マルファン症候群の肺の管理には、日常的にできることがいくつかあります。突然の肺気胸のような緊急事態を考えたくないのは当然のことですが、自分の病気を理解し、緊急事態に備えて事前に準備しておくことで、自分や家族がいざという時に何をすべきか理解しているという点で、安心して毎日過ごすことができます。このような自己管理は、マルファン症候群や関連疾患と共存していく上で重要なことです。

 

ここでは、皆さんや皆さんのご家族が日常的あるいは緊急事態が発生した際に行うことのできる対処法の一部をご紹介します。

 

肺のケア

 

日常的な管理

 

  • 呼吸器専門医を受診して肺機能検査を受ける。

  • 肺疾患管理のための治療計画に従う。

  • 喫煙を避ける、または禁煙する。
    マルファン症候群や関連疾患の方の場合、肺疾患に罹患するリスクがあるということは、あらゆる形の喫煙を避けたり、禁煙をやめる強力な動機付けとなります。

 

突然の肺虚脱

 

  • 大気圧が急激に変化する可能性のある活動は避ける。
    マルファン症候群の肺は気胸を起こしやすいので、スカイダイビングやスキューバダイビング、無圧航空機での移動など、気圧が急激に変化する危険性がある活動は避けることが重要です。

  • 肺虚脱の兆候や症状がある場合は、重症度の判断のために、すぐに医師の診察を受ける。

  • 緊急事態に備える。
    The Marfan Foundationのウェブサイトからダウンロードできる「Emergency Preparedness Kit」に記入しておき、必要に応じて救急部門に持参してください。

 

睡眠時無呼吸

 

  • 眠気を誘うアルコールや薬は避ける。
    これらにより、睡眠中にのどが開いた状態になりにくくなります。

  • 仰向けではなく横向きで寝ると、のどが開きやすくなる。

  • 禁煙する。

 

出典:

https://marfan.org/wp-content/uploads/2021/09/Lungs_in_Marfan_Syndrome.pdf

 

The Marfan Foundation did not participate in the translation of these materials and does not in any way endorse them. If you are interested in this topic, please refer to our website, Marfan.org, for materials approved by our Professional Advisory Board.

The Marfan Foundation は、当翻訳には関与しておらず、翻訳内容に関してはいかなる承認も行っておりません。このトピックに興味をお持ちの方は、Marfan.org にアクセスし、当協会の専門家から成る諮問委員会が承認した内容をご参照ください。