海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

CRISPRとマルファン症候群

遺伝子編集技術CRISPRのことを聞いたことがありますか?将来、CRISPRによってマルファン症候群を治療したり、完治させることさえできるのでは?と考えたことはありませんか?多くのThe Marfan Foundationの会員の方からCRISPRについての質問が寄せられています。そこでCRISPRについての概要とマルファン症候群および関連疾患の治療にCRISPRが利用できるかどうかについて、概要を説明していきたいと思います。

 

マルファン症候群あるいは関連疾患に対する遺伝子検査の技術は過去20年間で急激に進歩しました。マルファン症候群の遺伝子学的基礎、つまりマルファン症候群の原因遺伝子が同定されたのは1991年のことでした。つい10年ほど前まではマルファン症候群の診断は通常、臨床的特徴にのみ基づいていました。今やマルファン症候群あるいはいくつかの関連疾患の診断においては、遺伝子検査が極めて重要な役割を果たしています。

 

病気の原因となる変異を特定することが診断の一部であるという考え方が浸透したことで、「変異が分かるのなら、それを修正することができるのでは?いつ?どうやって?」という疑問が湧いてきます。こうした考えを持っていれば、遺伝子編集技術であるCRISPRのことをニュースなどで目にすることもあると思います。CRISPRは遺伝子の変異や有害な配列を置き換え、遺伝子の正常な機能を「取り戻す」技術です。「Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(クラスター化された規則的な間隔をもつ短い回文の繰り返し)」の略語であるCRISPRは、攻撃されたDNA領域の特性を表しています。

 

CRISPR研究は遺伝子疾患に対する有効な治療アプローチとなりうる

 

2017年10月、多様な遺伝子疾患全体の治療あるいは予防にCRISPR技術が利用できる可能性があるとの2例の研究が発表されました。(これらの研究の一般向け記事はWashington PostあるいはLA Times参照)

 

これらの論文の実験は全て、ペトリ皿で培養した細胞に対して行われたものであるため、ヒトに対する応用は数年先になることを覚えておく必要があります。

 

上記論文の一方の著者であり、ハーバード大学で化学を専門とするDavid Liu教授は、Washington Post誌でCRISPR技術の基礎を解説しています。

 

「我々の細胞のほぼすべてにDNAを構成する30億個の塩基対が2組存在します。これらは両親から1組ずつもらいます。このヒトゲノムを構成しているのは、A、C、G、Tというたった4文字で、AとT、GとCが常にペアになっています。」

 

「上記の文字ペアが他の文字ペアと入れ替わってしまう遺伝子コードのエラーを点変異と呼びます。点変異が起きると大惨事となることがあります。ヒト、そしておそらくすべての生命体において、病気に関連する点変異の中で最も頻度が高いエラーが、G-CペアがA-Tペアに置き換わってしまうエラーです。この種の変異はヒトにおいて病気の原因となることが知られている32,000種類の点変異の約半数を占めています。」

 

ではCRISPRはどのように機能するのでしょうか?CRISPR-Cas 9により、例えば、A-TペアをG-Cペアに変化させ、点変異を修正することができます。この時エラーを起こすことはほぼなく、DNA鎖を切断する必要もありません。DNAの他のタイプの点変異の修正には、異なった遺伝子編集技術を使います。

 

ですが「こうした塩基編集技術を使って、生きているヒトの遺伝子疾患をすぐに治療することはできません。特にマルファン症候群でも時々みられるように、人生の後半になって症状が出てくるような病気には使えないのです」とLiu医師は警告します。

 

「CRISPRを用いて治療を行うには、体内の正しい組織に編集ツールを運び、その中の適切な細胞に到達させるための最適な方法を決定しなければなりません。また、遺伝子治療を行う最適な時期についても検討しなければならないのです。」

 

では将来、CRISPRに基づく技術を使ってマルファン症候群や関連疾患の治療や完治、予防が可能になるのでしょうか?一言でいえば「おそらく間違いない」でしょう。例にもれず悪魔は細部に宿ります。マルファン症候群の場合に当てはめると、全身が対象となるのか、どの組織、細胞が対象となるのかということになります。発達段階の早期胚あるいは胎児に行う必要があるのか、それとも、新生児や小児、思春期の若者、成人にも適用できるのかということになるのです。

 

CRISPRは多くの遺伝子疾患の発現を劇的に変化させる可能性があり、こうした疾患の治療や予防、根治において重要な役割を果たすことになるかもしれません。あるいは他の画期的な技術がより大きな重要性を持つ可能性もあります。将来に向け希望のもてる技術ではあるものの、未だ研究初期の段階であり、ヒトに適用できる水準ではありません。

 

出典:

blog.marfan.org

 

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