海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

栄養・体重・QOLについて ~パート3~

2016年4月25日
Hien Nguyen-Le

 

先日このマルファンブログで、Alix McLean Jenningsさんが栄養士の先生と協力して、9歳になるマルファン症候群の娘Cassieちゃんの体重を健康的なレベルまで増加させたお話をご紹介しました。前回のブログでは、Aixさんと栄養士のHien先生とのQ&Aの前半部分を紹介しました。今回のブログは、Q&Aの後半部分です。

 

 

Q: やせているとお腹が空かないのはどうしてですか?

 

A:

体に栄養が不足すると、体内の機能系統全てに影響が及びます。その中には、食欲を調節したり、空腹や満腹であることを伝える機能を調整する神経系統が含まれます。神経系統が障害されると空腹や満腹の信号が正確に伝わらなくなります。空腹の信号が伝わらない場合、慢性的に栄養不足の方は空腹感を得られなくなります。体は空腹のサインを送っているのですが、そのサインを十分に受け取ることができなくなるのです。満腹感も同様です。まだ余裕があるのにお腹いっぱいだと感じてしまいます。空腹感は実際よりも遅く、満腹感は実際よりも早く感じるようになります。これを早期の満腹感と呼びます。栄養失調の方が食べ始めてすぐに満腹感を訴えるのはこのためです。少し食べただけでも満腹になってしまうのです。

 

Q: 体重が増えたら、食欲は元通りになりますか?

 

A:

間違いなく元通りになります。

 

Q: お腹が空いていない時でも食べるにはどうしたらいいでしょうか?

 

A:

難しい質問です。1つ目の方法としては、口に合うものを見つけることです。お腹が空いていない時には、いちばん好きな食べ物を見つけるようにしてください。2つ目の方法としては、そのような自分を精神的に受け入れ、栄養補給についてよく理解することです。さらに、今の状態は一時的なものであり、もう一歩先に進むためには乗り越えなければならない壁であるということを知ることです。

 

宿題をしたくない時にはどうやって終わらせたらいいでしょう?一言で答えを言うと、意志の力を使うということです。実はこの意志力こそ必要な力なのです。やりたくないことかもしれない、でもそれこそが必要なことだということです。難しいことですが、自分の体を大切にするには、やりたくないことでもやらざるを得ない時もあるということを受け入れることも必要かもしれません。もっと適切な回答ができればいいのですが、プロセスを受け入れ、理解するということです。突然食欲が湧いてくる方法があればいいのですが、実際にはないのです。

 

Q: 胃ろう管を付ける時期はどう判断しますか?

 

A:

簡単に言えば、心理学的あるいは生理学的な理由などで、口からの栄養が十分に摂れなくなった時です。生理学的あるいは医学的理由としては、飲み込みや噛むことができなかったり、食物過敏性、食感の問題などがあります。あるいは、代謝亢進が進んでいることも原因となる場合があります。口からの栄養は摂れているものの、体重が増えるほど十分な栄養は摂れていないということです。非常に小さなお子さんですと、行動発達学的な理由も考えられます。食べたくない時に、なぜ食べなければならないのかがわからないのです。

 

Q: 低体重であることと、スタミナ不足とはどのような関係がありますか?

 

A:

低体重であるということは、生命の維持に必要なだけの栄養を摂れていないということです。その場合、代謝速度を遅くすることで、体は自らを守ろうとします。代謝を体のエンジンと捉えてください。代謝とは体の基幹システムであり、あらゆる機能に携わっています。心臓を拍動させたり、呼吸時に肺を膨らませたり、血液を流れるようにしたり、脳に思考させたり、消化を行うなどです。これら全ての活動において細胞からのエネルギーが必要であり、そのエネルギーは食物により供給されます。十分なエネルギーが得られない場合、私は低体重となり、命を守るためにあらゆる機能が低下します。そうならない場合には、死を早めるだけです。飢えとは、ゆっくりと死に向かっているのと同じなのです。

 

私達の体が防御態勢に入ると、あらゆる機能が低下します。この理由は、栄養が摂れていないことから、体があまりエネルギーを使わないようにしているためです。エネルギーを長持ちさせようとしているということです。代謝速度が低下すると、自然と疲れやすくなり、持久力がなくなります。栄養失調の方の中には、全力を出せるのは少しの間だけで、その後は動けなくなってしまうとおっしゃる方がいます。これは栄養失調の生化学的な反応によるもので、体がストレスを感じていたり、飢餓状態にあったりすることが、体にとってのストレスとなっているのです。それにより、アドレナリン反応が引き起こされます。

 

体はアドレナリンの分泌量を増加させ、エネルギーを増やすことでストレスに対処しようとします。闘争・逃走反応と同じです。短い期間なら頑張れるのですが、アドレナリンは本当のエネルギーではないので、その後でへたってしまうのです。栄養失調の方は覇気がないと言いたいのではなく、ジェットコースターのようなもので、エネルギーがピークに達した後でクラッシュしてしまうということです。最終的には、起き上がれなくなってしまうのです。

 

Q: カロリー摂取の最適な時間はあるのでしょうか?それとも、24時間で摂取するカロリー量のみが重要なのでしょうか?

 

A:
重要なのは24時間で摂取するカロリー量全体です。ですが、食事は分散させて一定間隔でとることを強く推奨します。一度に大量に食事をとっても、吸収できる量には限度がありますし、すぐに満腹になってしまうので、それほど多くのカロリーを摂取できるわけではありません。

 

Q: タンパク質は毎日どのくらい摂ればいいですか?

 

A:
人によって異なりますが、栄養学上の一般的な推奨量は、成人、小児とも1キログラムあたり1グラムです。

Q: 炭水化物や脂質の摂取量が適切かどうかは気にしなければいけませんか?

 

A:

その必要はありません。むしろ、タンパク質の方が重要な意味を持ちます。というのは、タンパク質は体のエネルギー源とはならないからです。エネルギー源となるのは、脂質や炭水化物です。タンパク質は酵素神経伝達物質、個々の細胞を構成するための材料になります。優先すべきは、タンパク質を多く摂ることです。なぜかと言うと、炭水化物や脂質からカロリーを補充すると、それらは体が必要としているタンパク質に変換されますが、もし体内のタンパク質の量が十分ならば、炭水化物と脂質はエネルギー源として蓄えられるからです。一般な話ですが、私なら十分なカロリーが摂れているかどうかに着目します。摂取したカロリーの20%がタンパク質(鶏肉、魚介類、赤肉など、口に合うものなら何でも構いません)に由来するのであれば、問題ありません。残りの80%のカロリーは炭水化物や脂質から摂ればいいのですが、栄養密度を高めるためには、脂質に比重を置いた方がいいでしょう。胃ろう管から栄養を補給している場合の最適な比率については、栄養学の情報を参照してください。

 

Q: おすすめのサプリメントはありますか?

 

A:

一般的には、自然食品ベースのビタミン・ミネラルのサプリメントをおすすめしていて、それ以外には一人ひとりのニーズに応じたサプリメントを追加することになると思います。例えば、貧血であれば鉄分、マグネシウム亜鉛ビタミンDが不足していれば、マルチビタミンの他にサプリメントを追加することをおすすめします。

 

Q: 血液検査で不足している栄養素はわかりますか?

 

A:
はい、わかります。担当医にお願いして精密検査にビタミン・ミネラルの検査を追加してもらってください。

 

Q: マルファン関連疾患の方が、体重を回復する上で考えるべきことはありますか?

 

A:
一般的に、マルファン症候群の方で特定の胃腸疾患をお持ちの方では、そういった病気の患者さんと違った対応が必要になるということはないと思われます。消化器疾患の場合も同様です。患者さん個々の病状に応じて治療します。

 

Q: 私の住んでいる地域で栄養士を探す場合、その栄養士に体重回復についての知識があるかどうか、あるいは専門の教育を受けているかどうかを確かめる方法はありますか?

 

A:
栄養学や栄養補給のプロセス、体重回復についての診療経験がある方、体重増加のプロセスにおける生物学的なステージや、空腹・満腹のサインが出た時には何が起こっているのかを理解している方。胃ろう管をつけている患者さんと楽しく接することができる方がいいでしょう。

 

Q: マルファンのことを理解している栄養士にかかることが重要なのでしょうか?それができない場合には、マルファンに詳しい栄養士から自分の担当医に話を伝えてもらったほうがいいでしょうか?

 

A:
栄養士がマルファンに詳しい方が望ましいとは思いますが、チームの他のメンバーと喜んで協力できる方であれば、マルファンに詳しいかどうかは問題にならないと思います。

 

Hien Nguyen-Leさんについて

 

ニュージャージー州ヒルズボロー出身。教育学修士兼栄養士。20年近くにわたり食欲異常および摂食障害の治療を専門とする栄養療法士。各クライアントが置かれた生活環境を大きく捉え、その中で食事における問題を解読する上で、Rutgers大学で専攻した教育心理学が大きな影響を与えている。食と栄養学への情熱が、彼女の治療の礎となっている。人には個別の「食への特性」があり、温かで思いやりのある、それぞれに適した治療アプローチを行うことで病気からの回復は可能と信じる。