海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

栄養・体重・QOLについて ~パート2~

2016年4月7日
Hien Nguyen-Le

 

先日このマルファンブログで、Alix McLean Jenningsさんが栄養士の先生と協力して、9歳になるマルファン症候群の娘Cassieちゃんの体重を健康的なレベルまで増加させたお話をご紹介しました。今回のブログでは、Aixさんと栄養士のHien先生とのQ&Aの前半部分をご紹介します。

 

 

Q: 適切な栄養を取ることで、QOLはどのように改善するのでしょうか?

 

A:

あらゆる部分で改善します。栄養は人体の全ての組織系だけではなく、感情面、心理面にも影響します。つまり、栄養により、より多くのエネルギーが、あらゆるレベル(身体面、感情面、精神面)で与えられることで、我々の幸福度は向上することになります。栄養を取ることにより、エネルギーや活力があふれることに加え、人生におけるストレスからの回復力が増すことにもなります。

 

Q: 栄養がきちんと取れていれば、スタミナが改善し、疲れにくくなり、バランスがとれていると感じるようになるのでしょうか?

 

A:

そのとおりです。もっと元気になり、エネルギーが持続するようになります。もっとバランスが良くなり、地に足がついているように感じるようになるのは間違いありません。私は「いかりを下ろしている」という表現が気に入っています。栄養学的には問題なくても、食事を抜いたり、長時間何も口に入れていない方では、空腹によって気分が害されることがわかっています。長期間にわたり、慢性的に栄養が足りていない方を想像してみてください。

 

Q: 長い間、体重を増やそうと苦労してきたので、食べ物を目の敵のように思っています。このような感情の対処法を教えて下さい。

 

A:

回答が非常に難しい質問ですが、そのように感じるのは自然なことだと思います。食べ物や栄養に関してかなり気を遣っているにも関わらず、期待した結果がおそらく得られていないためにそうした感情が湧いてくるのだと思います。最善の解決策は、体重が増えない原因が消化器系にあるのか、代謝の問題なのか、あるいはご自身の病気にあるのかといった栄養学的な問題について知識を得ることです。ご自身の問題や問題の本質がどこにあるのかについて専門家の意見を求め、過去の努力がなぜ報われなかったのかを理解することが重要です。

 

当たり前のことですが、専門家が期待する結果を得られるよう、適切なアドバイスを受けることも大事です。こうした行動により、食べ物に対する嫌悪感も薄れていくと思います。

 

Q: きちんと栄養が取れていれば、食事のコントロールに役立つのでしょうか?無理に食べている感じがします。食事にあまり気を取られることなく、もっと楽しいことに集中したいです。

 

A:

そうですね。栄養状態が良くなれば、間違いなくそうなりますが、そのためには、元の体重に戻そうとする努力が必要です。自然な健康体重に近づくにつれ、食事や食欲を調節する生物学的なメカニズムは全て正常に戻り始めます。空腹感が得られるようになり、より正確に満腹感を感じられるようになります。食欲が増し、無理矢理ではなく、思い通りに食べている感覚になります。そうなると、より食事のコントロールがしやすくなります。

 

Q: 内臓に大きな問題がない場合、体重を増やすために最も効率的にカロリーを摂取するにはどうすればいいですか?

 

A:

全てのカロリーを食べ物から摂取する場合には、栄養密度の高いものを選ぶことです。栄養密度の高い食べ物とは、最も多く主要栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)を含み、最も少ない量でカロリーを摂取できる食べ物のことです。例えば、全乳はスキムミルクよりも栄養密度が高く、カロリー、脂質も多く含まれます。また、少しの量を何度も摂るようにしてください。3食しっかりと食べる代わりに、1食あたりのカロリーが高い少量の食事を5~6回取るのがいいでしょう。カロリーの多いものを少量ずつ何度も食べるというのが、カロリーを増やすベストな方法です。

 

口からだけではなく栄養チューブからも栄養を摂る場合は、夜間に栄養チューブからカロリーを摂取しますが、口から摂る栄養との適切なバランスを見極める必要があります。最適なバランスに関しては、患者(親)か、治療を担当する専門家のどちらかに、より専門的な知識が求められます。

 

Q: ジャンクフードでカロリーを摂っても、問題ありませんか?

 

A:

健康的な食べ物と比べると問題はありますが、カロリーを摂らないよりはよいでしょう。まず優先すべきなのは、食物を取り込むこと、つまり、栄養を再度供給することです。より栄養価が高く、高カロリーで栄養密度の高い食べ物が最も好ましく、次がジャンクフードによるカロリー摂取、最後がまったくカロリーを摂らない、ということになります。ジャンクフードを非難したいわけではありませんが、私の哲学は、健康的な食べ物からカロリーを摂るというベースがしっかりできているのなら、ジャンクフードを食べてもいいと思っています。ただし、食事が全てジャンクフードでないという条件付きです。ジャンクフードの問題点は、カロリーは摂れても、栄養や微量栄養素が摂れないということです。微量栄養素とは、ビタミンやミネラルのように体の回復力を高めてくれ栄養素です。

 

Q: 糖質をたくさん摂らずに食事のカロリーを増やすことはできますか?

 

A:

可能です。最も良い方法は、脂質と複合穀物(キヌアや全粒穀物など高カロリーな穀物)を増やすことです。脂質の多いプロテインを加えてもいいでしょう。基本的には、脂質の多い肉やナッツ、たね類、アボガドといったカロリーの多い自然食品を摂りましょう。口に入れるものが全て極端に高カロリーである必要はありませんが、そういった系統の食べ物にしたほうがいいですね。こうした食物の糖質は問題ありません。私なら量だけを制限します。

 

必要とする全体的なカロリー量によっても変わります。私の経験では、栄養失調で元の体重に戻そうとしている方々だと、年齢や個人差もあるものの、一日あたり3,000カロリー以上必要となる方もいます。このようなケースでは、ナッツやたね類のみを大量に食べた後で、追加でアイスクリームやキャンディ、チップス、スイーツを食べても構いませんが、栄養価の高い食事がベースにある場合に限ります。

 

Q: 自分の健康体重はどうすればわかりますか?

 

A:

患者さんが子供や思春期の若者の場合には、成長曲線を使うことが多いですね。絶対的な指標となるわけではないのですが、健康な体重がどのくらいかという目安にはなります。一般的には、専門家に相談して決めるのが最善の方法です。過去の記録が残っていない場合、私なら患者さんの現在の体重を確認し、栄養に関してどのような問題があるかを調べます。問題が解決するまで、徐々に摂取カロリーを増やし、元の体重に戻していきます。

 

例えば、栄養が不足しているために疲労感があると訴える患者さんに対しては、元気になるまで、徐々に元の体重に近づけていきます。あるいは、栄養摂取に直接影響している身体的な病気が回復するまで、もしくは、食欲が出てきたり、消化器系の問題が改善するまで、体重を増やしていきます。また、身体的な指標を利用して、健康体重を調べるお手伝いをすることもあります。

 

他には、代謝亢進プロセスを調べるという手もありますが、専門家の助言が必要になります。

 

Q: 代謝亢進プロセスとは何ですか?体重を増やそうとしたとき、代謝には何が起こりますか?

 

A:

代謝亢進とは、代謝のスピードが「通常」よりも速くなることです。栄養失調になると、代謝速度が下がることで、作り出されるエネルギーが減るため、エネルギー量が低下します。食事をして栄養が足りてくると、代謝速度が上がり始めます。代謝はお金に例えることができます。お金がそれほどない場合には、あまり使わなくなり、お金がたくさんあるときには、自由に使えるのと同じです。体は「カロリーが少ない」と判断すると、カロリーを蓄えます。つまり、体内機能のスピードを遅くするということです。心拍数が低下するなど、体のあらゆる基本機能がゆっくりになります。例えば、栄養が足りていない10代の女子では、ホルモンを調節するためのエネルギーが不足することから、生理が来なくなることがあります。体が体内機能を働かせるエネルギーを奪ってしまうので、代謝速度が低下するのです。

 

その状態で栄養を補給することで、代謝の速度が上がるのですが、一部のケースでは、速度が急上昇することがあります。患者さんの既往歴や遺伝、年齢、成長期にあるかどうかなどで変わりますが、思春期ではこの傾向がより顕著になります。栄養摂取を再開した際、代謝速度がピークに達するまで上昇し、健康体重に到達した時点で代謝速度が落ち始め、正常な速度に戻ります。以上のことには、非常に大きな個人差があるので、常時モニタリングする必要があります。前の質問に戻りますが、健康体重かどうかを判断する指標の一つが、この代謝亢進が既に完了しているかどうかということです。

 

Q: 代謝速度が速くなっていることはどうすればわかりますか?

  

A:

体重が増えるのに必要な食べ物の量をモニタリングすることでわかります。毎週の目標体重を達成するのにそれほど多くの栄養を必要としない場合には、代謝速度が速くなっていますが、代謝が正常の場合には、その人の年齢に合った一般的な代謝速度になっているということです。代謝の速度が極めて速く、体重を増やすために「正常」より多い栄養が必要となる場合には、代謝が亢進している状態です。増量に必要な食物の量を相対的にみることで判断するということです。

 

Q: 代謝速度が速くなっているときには、カロリーを多く摂らなければいけないことはわかりましたが、体重が元に戻った時は、カロリー量を減らすことは可能なのでしょうか?

 

A:

可能です。目標体重に近づくと代謝速度は遅くなります。代謝亢進の状態では、無理に食べているような感覚になることもあります。理想的なのは、代謝亢進が終わった後では、より健康かつ丈夫で食欲があり、無理に食べている感覚が無くなっている状態です。

 

Hien Nguyen-Leさんについて

 

ニュージャージー州ヒルズボロー出身。教育学修士兼栄養士。20年近くにわたり食欲異常および摂食障害の治療を専門とする栄養療法士。各クライアントが置かれた生活環境を大きく捉え、その中で食事における問題を解読する上で、Rutgers大学で専攻した教育心理学が大きな影響を与えている。食と栄養学への情熱が、彼女の治療の礎となっている。人には個別の「食への特性」があり、温かで思いやりのある、それぞれに適した治療アプローチを行うことで病気からの回復は可能と信じる。

 

出典:

blog.marfan.org

 

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