海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

栄養・体重・QOLについて ~パート1~

2016年5月22日
Alix McLean Jennings

 

私達マルファン症候群の家族にも関わりの深いQOL(生活の質)の問題に対するThe Marfan Foundationの取り組みには、とてもワクワクしています。9歳になるマルファンの娘の母親として、現在そして将来の娘のQOLについて日々考えを巡らせています。QOLといっても多くのものが含まれますが、昨年私達が特に関心を持ち、素晴らしい成果がみられたのは、栄養摂取と体重増加に関してでした。

 

「体重が増えない」ことは、私達のマルファンコミュニティでは非常に大きな関心事になっています。マルファン症候群のFacebookグループでは、「どうすれば体重が増えるのか」という質問は毎週投稿されているように思います。娘のCassieのように、栄養失調と言えるほどの深刻なケースも見受けられます。数年前、オンラインでCassieの身長と体重を入力し、BMI [ 体重 (kg) ÷ 身長 (m) × 身長 (m) ] を計算してみました。画面には「すぐに救急処置室に連れて行ってください」という冗談のようなメッセージが表示されていました。ショックを受けたことは確かなのですが、当時はこれに関して自分に何かできることがあるとは思えませんでした。

 

低体重が原因となっている問題には、多くのマルファン患者が抱えるスタミナ不足もあります。これに関しては他の要因もありますが、脂肪により蓄えられるエネルギーが不足することで、スタミナ不足はより深刻になります。

 

Cassieの低体重は赤ん坊の頃から続いています。生まれた時は、7ポンド11オンス(約3486グラム)と正常でしたが、生後数ヶ月後で「発育不良」と診断されました。(医療関係の方には、「発育不良」の別の言い方を考えていただきたいものです。「発育不良」は娘のようなケースに使う言葉ではありません。このような言い方をされると、娘の成長が思わしくないのは、母親である私に責任があるかのように感じてしまいます)「発育不良」の診断を受け、Cassieを担当する専門家の長い長いリストには、胃腸専門医と栄養士が加わりました。授乳に加え、搾乳した母乳にフォーミュラを入れて、Cassieの摂取カロリーを増やすように指示されました。哺乳瓶の母乳には、通常の2倍の量のフォーミュラを入れました。授乳やら搾乳やらでヘトヘトになってしまい、とても残念ではありましたが、6ヶ月後にはCassieへの授乳をやめてしまいました。

 

Cassieの成長は2~3年間はおおむね順調でした。担当の栄養士と胃腸専門医からは、食べたいものを食べさせるよう言われていました。摂取カロリーは多いほど良いということでした。その結果、Cassieはジャンクフード好きになってしまいました。(4歳頃の6ヶ月間、CassieはKraft Mac & Cheeseしか食べませんでした)野菜は全く口に入れず、砂糖と塩が大好き。ずっとやせぎみではありましたが、5歳になると成長曲線が急降下しました。食欲がなくなり、あまり食べなくなりました。「食事よりも運動」という子供でした。この急降下の最大の理由は、自分の体をほとんどコントロールできていなかったCassieが、食べないことで自分なりにある程度コントロールしようとした、ということなのだと思います。Cassieの人生において食事は常に問題となっていました。夫と私は自分たちがCassieの体重を気にかけているのを気付かせまいと努力しました。ですが、私達が娘の食事の量について話したり、もっと食べるようにいつも言っていたので、娘は気付いていたのだと思います。娘には食事の癖のようなものがありました。お腹いっぱいになると食べるのをやめてしまうのです。まだアイスクリームを食べられるはずなのに、いらなくなると、まだ容器に残っていたとしても押しのけてしまいます。私達はそれでも無理して食べさせようとしましたが、間違いだったようです。(実際のところ、私こそCassieの食習慣を見習うべきであり、私の食習慣を押し付けるべきではなかったのですが…)そのやり方もうまくいきませんでした。すでにアイスクリームをたくさん食べていたせいで、娘は薬を飲まされているように感じ、アイスクリームを拒否するようになってしまったのです。やせてきたCassieはますます少食になっていきました。体に栄養が足りず、そのせいで食欲がほとんどなくなってしまいました。食べることは大好きだったものの、食べる量が極端に少なくなり、限られたものしか食べなくなったのです。

 

初めての脊椎手術の後、状況はより深刻になりました。(手術では重度の側湾を矯正するため、伸縮型ロッドを挿入しました)この手術からの回復は、驚くほど大変で、6ヶ月前に行った僧帽弁修復術など、まったく取るに足らないもののように思えました。手術直後Cassieの体重は5ポンド(約2.27キログラム)減り、翌年は1ポンドも増えませんでした。担当の医師らは皆、私達夫婦に胃ろう管について話すようになりました。(胃ろう管とは、直接胃に栄養を流し込むための管です)夫と私は、始めは拒否していました。理由は、私達の生活をこれ以上「医療化」したくなかったということ、そして、胃ろう管に効果があるとは思えなかったからです。脊椎の手術からまもなく一年という頃、ロッドを伸ばす一回目の手術のため病院を訪れました。そのとき、胃腸の専門医との面談をお願いしました。その医師からは、CassieのBMIはこれまでに診た患者の中で最低であると告げられました。Cassieのやせ具合は私にもわかりましたが、実際の医師の言葉を聞いて、娘の切迫した状況を理解しました。

 

胃ろう管がつけられたのは、2、3ヶ月後の2014年9月です。このとき娘は7歳半で、体重は37ポンド(約16.78キログラム)になっていました。今は当時よりも23ポンド(約10キログラム)増えたので、誇らしく思っています。最近、小児用BMI計算機に娘の身長と体重を入力してみたところ、正常の範囲内でした。とはいえ、正常ラインぎりぎりです。それでも、「緊急処置室へ直行」などというメッセージとは雲泥の差です。まだスタミナの問題はありますが、当時よりもかなり改善しています。最近では、お友達とWiiボクシングで遊ぶようになり、休むことなく3ラウンドを終えることができます。以前は1ラウンドがやっとでした。冗談のように思われるかもしれませんが、Wiiボクシングはかなり体力を消耗するので、どれほどスタミナが付いたかを測る上での目安になるのです。とはいうものの、ここまでの道のりは平坦ではありませんでした。

 

胃ろう管をつけた後、胃腸専門医チームの栄養士から、Cassieの年齢と身長に見合う体重にするには、一日あたり2100カロリーが必要、と言われました。当時Cassieが一日に摂取していたのは1,000カロリー未満でしたので、その2倍以上のカロリーを摂取するのは不可能だと思いました。また、栄養士は2100カロリーをどのように摂取すればいいのかについては指導してくれませんでした。そこで私達夫婦は、一晩かけて、かなりゆっくりとCassieに栄養を与えるようにしました。(始めは一晩あたり100mlですので、実際はほとんど効果はありません)それから徐々に量を増やして480mlまで増量しました。数ヶ月経つとCassieの体重は5ポンド(約2.27キログラム)増えました。その後しばらくは横ばいが続き、どうしても42ポンド(約19キログラム)を超えませんでした。

 

時を同じくして、自宅では食べ物に関する問題が私達の生活に影を落としており、私の不安は増すばかりでした。誰が、何を、どのくらい食べたのかについて、私と夫は一日も欠かすことなく話し合いました。長女は常に健康な体重をキープしていましたが、Cassieよりも自然に食べ物に興味を持っていました。Cassieには朝食にアイスクリームを食べてもいいといって、長女にはダメというのはとんでもないことのような気がしました。2人の娘を持つ女性として、食べ物を強く意識させていたことで、娘たちが体型について抱える心の問題についてはとても気を使いました。

 

これについて私は毎週会うセラピストの先生にしょっちゅう相談していました。ある時、先生はお知り合いの栄養士の方を紹介してくれました。Hien Nguyen-Le先生は、摂食障害の患者さんを元の体重に戻す治療を専門としている方でした。Hien先生にお会いしてから状況は一変したのです。

 

Hien先生は家族で食べ物の会話をする時に、以前のようにギスギスせずに済む方法を教えてくれました。そしてなんと言っても、Cassieはメンタル要因の拒食症ではなく、身体的な要因の拒食症であるということを気付かせてくれました。さらに、体重を増やす方法を指導してくれたのです。

 

Hien先生の説明は次の通りです。「体が飢餓状態にある時、多くのカロリーを摂取すると代謝が活性化します。そして体は取り込まれるカロリー量に慣れていきます。よって、代謝が活発な状態では、摂取したカロリーを使い切らないように、さらに多くのカロリーを取る必要があります。摂取カロリーを増やした場合、始めは体重は増えていきますが、同じカロリー量を摂取し続けた場合には、体重は横ばいとなったり、減少することさえあります。そのため、体重が横ばいになった状態でも、さらにカロリーを取り続けることが非常に大事になります。」

 

Hien先生のご指導の下、Cassieの毎日の摂取カロリーに150カロリーを追加しました。(カロリー計算はかなり骨が折れましたが、この方法の最初のステップでは避けては通れません)そして、Cassieの乾燥体重(何も身に着けず、何も食べていない状態で朝一番に測る体重)を毎朝測り、その数値と前日に摂取したカロリー量を毎日Hien先生にメールで送りました。1オンス(約28グラム)でも増えていれば、次の日は同じカロリー量にし、2、3日を超えて体重に変化がなかったり、減っていたりした場合には、次の日は150~200カロリーをプラスするようにしました。

 

すぐにCassieの体重は1週間で1ポンド(約453グラム)増えるようになりました。体もその変化に素早く適応し、問題なくHien先生の方法を続けていくことができました。その変化はまさに驚くべきものでした。もうズボンがずり下がってくることはないのですから。多くの方から「ふっくらした顔になったね」と言われるようになりました。まだヒョロっとしているので、もう少し肉をつけようとがんばっているところですが、もう以前のように体重の心配をすることはありません。過去数年で6回の手術を受け、術後はやむを得ず体重が減ることもありましたが、以前よりずっと早く元の体重に戻るようになりました。また、以前より食べ物に興味を持つようになりました。食欲が増しただけではなく、いつもとは違う種類の食べ物を口にすることにも興味が湧いています。最近では、初めてブロッコリーを食べ、(以前は野菜を全く口にしない子供でした)「すごくおいしい。他の子はどうしてブロッコリーが嫌いなの?」とまで言うようになりました。

 

私達夫婦にとって、最初は恐ろしく思えた胃ろう管ですが、娘のためには最善の方法だったのです。ですが、私達が行った方法は、胃ろう管なしでも確実に行うことができます。Cassieは寝ている間に必要なカロリーの半分を取っていましたが、皆さんは起きている間に必要な全カロリーを摂取すればいいのです。

 

体重も増え、スタミナも付いたことで、CassieのQOLは大きく改善しました。9歳の女の子にとって、以前よりWiiを長時間プレーできること以上に素晴らしいことがあるでしょうか?丈夫になったことが、QOLの改善につながったのは間違いありません。マルファンの子供を持つ母親として心配は山積みです。ですが、体重についての心配はなくなりました。食べ物に関しても、我が家ではほとんど話題にならなくなりました。こうしたことが重なり、結果的に自分自身のQOLにも満足できるようになったのです。

 

Alix McLean Jenningsさんについて

 

The Marfan Foundationの理事会メンバーで、ニュージャージー州マディソン在住。娘のCassieは2007年にマルファン症候群の診断を受ける。

 

出典:

blog.marfan.org

 

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