海外マルファン情報

米国マルファン症候群患者団体The Marfan Foundationからの情報を中心に、マルファン症候群や関連疾患についての海外情報を翻訳して発信します。

コストコで命を救ったお節介

2021年2月9日

Janna Klostermann

 

「お隣はあなたのお母さん?だったら検査受けなきゃダメよ」

 

カナダのピーターバラにあるコストコで、身長173cmの母を見下ろすようにレジに並んでいた192cmの私は、ある女性に声をかけられました。彼女は、私の足の先から頭のてっぺんまで目を走らせると、マルファン症候群という病気の検査を受けるように勧めてきました。そして「私の家族もマルファンなの」と、遠くにいる彼女の夫と息子を指差したのです。

 

私は彼女の機嫌を損ねないように話を合わせました。

 

きちんと礼儀正しくして、彼女の好意に感謝の気持ちを表そうとしました。彼女の家族を見て違いを理解した私は「マルファンってあんな感じなのね」と自分からは遠い存在であると思うことにしました。

 

うちに帰った私は、インターネットでマルファン症候群のことを調べました。兆候や症状、生じる問題や異常所見といった専門用語の脇には、長くてヒョロっとした腕や脚の図が載せられていました。自分がその病気である可能性はそれほど高くはなさそうでした。自分が「病人」であるとは思いたくはなく、自己解決したり、何かを実現させている人間だと思われたかったのです。

 

とはいえ、高身長で長い手脚、柔らかい関節、ストレッチマークなど、検索結果には納得できる部分もありました。しかも、片方の手の指をもう片方の手首に回すと、指同士が重なったのです。

 

それから間もなく遺伝専門医により診断が確定しました。大動脈基部の動脈瘤(裂けたり、破れたりするリスクのある膨らみ)も見つかったほか、心臓手術を受けるように言われました。当時私は31歳。マルファン症候群の患者さんが一般的に手術を受けると考えられている年齢です。

 

心臓手術から回復するまでの道のりは、時間をかけて自分の弱さの価値を見つめ直す特訓期間だったのだと、35歳となった今は考えるようにしています。覆面記者のように、他の患者さんや医療者の口から何気なく出たユーモアのある一言を書き留めていました。心臓病の患者さんたちが作るウォーキンググループにも登録し、ウォーキングやストレッチなどに参加しました。「生死の境をさまよったことのない奴は、生きたことがないんだよ」 ―― 誰かがそう叫んだのを聞いた私は、ペンと紙を探して猛ダッシュして肉離れを起こしそうになりました。

 

健康は本当に大切です。振り返ってみると、カナダの公的健康保険のおかげで医療保険や治療費などの心配をせずに済み、回復に集中することができました。院外に出た最初の日には2分、次の日には4分歩きました。回復までは長く辛い道のりでしたが、その過程に多くの喜びや意味を見い出すことができました。その経過は『The Wounded Joker(傷ついた道化)』というタイトルの一人芝居で表現しました。命を救ってくれた診断と心臓手術には感謝の気持ちが尽きません。

 

母のキャシーと妹のクレアも私のすぐ後にマルファンであることが判明しました。ふたりとも私よりもかなり背が低いので、マルファン症候群の診断には驚きを隠せませんでした。私のように他の人から声をかけられることもありませんでした。結合組織疾患は人が変われば現れ方も様々であることを学びました。マルファン症候群であれば、誰でも同じ外見になるとは限らず、背が高かったり、痩せているわけでもありません。さらに、簡単に診断が付くわけでもなく、人混みの中で見つけやすいわけでもないのです。

 

マルファン患者だからといって誰もが経験を同じように表現するとは限らない ―― 私が会得した教訓です。自分の人生について語る際には、誰もが個性的で興味をそそる内容となるよう工夫します。このことは「マルファン」女性とのレッテルを貼られることを不安に感じていた私にとってはうれしい発見でした。「マルファンのジャンナ」にはなるまいと思っていましたし、マルファン患者としてありがちな経験をしたり、紋切り型の発言をするような人間にはなりたくありませんでした。

 

他人との違いをどう受け入れたらいいか、そして次回手術が必要なのか、必要とすればいつになるのかといった不安を抱えながら、どのように生活していけばいいのかといった質問に答えてくれた皆さんには感謝しています。その方々は、すすんで手を休めて自分たちの経験談を聞かせてくれました。その上、そういった悩みの人間らしい部分に共感してくれたのです。

 

コストコで私に声をかけてくれた女性にはどれだけ感謝しても感謝しきれません。レジで順番待ちの最中に声をかけられた時は気まずさを感じました。でも、その出会いが結果的に私の命を救い、他の患者さんとつながるきっかけとなり、コミュニティを立ち上げる道へと導いてくれたのですから。彼女との出会いは多くの可能性をもたらしてくれたのです。

 

Janna Klostermannさんについて

 

カナダ・オンタリオ州・オタワで執筆中。ワンウーマンショー『The Wounded Joker』をYouTubeに投稿した。

Twitterアカウント:@jannaKlos

 

出典:

blog.marfan.org

 

The Marfan Foundation did not participate in the translation of these materials and does not in any way endorse them. If you are interested in this topic, please refer to our website, Marfan.org, for materials approved by our Professional Advisory Board.

The Marfan Foundation は、当翻訳には関与しておらず、翻訳内容に関してはいかなる承認も行っておりません。このトピックに興味をお持ちの方は、Marfan.org にアクセスし、当協会の専門家から成る諮問委員会が承認した内容をご参照ください。